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なんて良い人なのか、愛子。
目鼻立ちがはっきりしていて顔も小さい美人さん。性格もサバサバしていてノリがいい。
こんな女性を放っておくなんて、世の男性は何をしているんだと……心の中でそう訴える。
「それに、京香と話してると元気になれるんだよね。毎日頑張ろうって気になれるの」
「え、じゃあ今日の話も面白く聞けてる?」
「今回の話はさすがに重過ぎ。面白さよりも心配が勝っちゃうよ」
「だよねー。ごめんごめん」
アラサーの大人とは思えないほど、無邪気に笑い合う私たち。
心の中に立ち込めている靄が、一瞬消え去った気がした。
気分を良くしたのか、愛子がテーブルの上に置いてあった大きなメニュー表を広げて、「お酒でも飲んじゃう?」と聞いてくる。
「明日仕事でしょ? 愛子は大丈夫なの?」
「だってまだお昼よ? 大丈夫大丈夫!」
「そう? じゃあ、私もいいけど」
「そうこなくっちゃ!」
愛子は白の受話器に手を伸ばし、カシスオレンジとファジーネーブルを頼んでくれた。どさくさ紛れにフライドポテトも注文したらしい。
「京香歌ってよ。私が歌ってる最中に店員さん来たら恥ずかしいじゃん」
「愛子、昔からそういうの気にするよね」
「だって私、歌上手くないもん」
「謙遜しちゃって! レコード会社に勤めてる時点で上手いに決まってるよ」
「それは偏見よ! 歌が好きだから、っていう理由だけで入社した人もいるの。私のようにね」
愛子の歌声はとても澄んでいて、決して下手ではないのに。私は愛子に言われるがまま、よく歌う懐メロを入れた。
思い返すと、前々からカラオケに行く度に、マイクを握る割合は圧倒的に私の方が多かった。というより、愛子が私の歌を聴きたがってくれるから、次々とリクエストしてくれるのだ。
歌い始めて三分くらいで、店員さんがドリンクとフライドポテトを持ってきてくれた。
愛子の作戦は、見事に成功したことになる。
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