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「本当、ずっと聴けるわぁ京香の歌」
「そうやって言ってくれるの、愛子くらいだよ」
「松尾君は? カラオケとか行かないの?」
「行くけど……私の歌に感心ないよ。彼も好きなのを歌って、互いに何の感想も言わない」
話していて寂しくなる。愛子は気を取り直すように「まあまあ飲もうよ!」とグラスを渡してくる。
私も愛子も、一気飲みするようにアルコール度数の低いカクテルを飲み干した。
「今日はもうじゃんじゃん飲んじゃお! 最悪明日有給使ってもいいわ」
愛子はそう言うと、また同じカクテルを追加注文した。
私が歌っている最中に注文して、私が歌っている最中に店員さんが持ってきてくれる。
さすがに歌って飲んでの私は、いつもよりも酔いが回るのが早い。
気分が良くなってきた。
歌う度に愛子が褒めてくれるから、嬉しくなって……そして彼とのモヤモヤを一緒に解消してくれている気がして……お酒の力も相まって、愛子に想いを伝えたくなった。
「愛子……私が結婚しても、ずっと仲良くしてね」
愛子は目尻を下げて「もちろんよ」と柔らかく温かい声で答えてくれる。
さっきと違って、今度は私から抱き着く。
「おー、よしよし。まったく京香は酔うと熱くなるんだから」
「いつも愛子にはそういう気持ちでいるよ」
「私もそうよ」
体を離して、笑顔を見せ合う。
愛子の柔和な表情を見ていたら、彼と結婚しようという踏ん切りがつけた気がした。
「愛子……私、彼と結婚する」
愛子は「それがいいわ」と深く頷いた。
だよね……愛子が言った通り、プロポーズの言葉なんかすぐに忘れるよね。
今は神経質になっているだけ。
そう納得していた時、ふと、愛子がデンモクを持った。
「じゃあ、私が歌っちゃおうかな」
今日初めて歌う愛子。
何を歌ってくれるのか。
画面には『最高ノイズ』という曲名が映っている。
詞・松尾 翔太郎
あれ、彼……こんな曲も書いていたんだ。
さすがに彼の曲を全部は把握していない。
愛子は彼の曲をよく歌うけど、この曲を聴くのは初めてだ。
……愛子の淡々と歌い上げる、哀愁さえも感じる繊細な声。聴きごたえがある。
次々と流れていく歌詞は、女性目線の歌詞だった。
彼って、こんなのも書けるんだと感心する。
あんな安直な言葉でプロポーズしてきたのに。
目で追いながら、ラスサビに入ったところで、ふと、違和感を覚える。
――待って、もしかしてこの曲……彼が書いた曲じゃない?
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