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芽吹き
さぁ、頭を出そう。
恵みの雨も降っている。
隣や、二階からは時々いやぁな視線も感じるけど平気さ。
さぁ、みんな一斉に芽を伸ばして、葉を伸ばして。
あぁ、お日様が暑いからもう、穂が出てきてしまったね。
だって、こんなお天気になったらもう止められないよ。
去年、僕たち、私達のこと、殲滅させられたって、周囲の人は思ったんだ。
だって、うるさい機械がやってきて、結構根っこの深いところまで僕たち、私達を掘り返したから、去年の間には芽が出なかったのさ。
でも、そんなにやわじゃないんだ。
雑草と呼ばれる僕たち、私達はこれからの季節どんどんと背丈を伸ばしていくよ。
ほうら、もう、お隣の人の腰の丈まで伸びているよ。
*****
隣の家の庭では、隣の家の奥さんが自分の家の花壇の雑草を、
『この雑草は明らかにお隣の雑草の種なんだよね。』
と思いながら抜いていた。
何年か前まで人が住んでいなかったこの家も雑草だらけだったから、お隣の雑草が生える隙間がきっとなかったんだけれど、自分の家の庭の雑草を綺麗にした後、去年位から生えてきたのがお隣の雑草だ。
そう、お隣の雑草はこの辺では見かけない種類。
きっと、お隣の旦那さんがサーフィンに行くから、どこかの浜辺から持って来たんじゃないかって、同じ階段の奥さんが言ってた。
そりゃ、あくまでも憶測だけれど。
これまでに見た頃のない種類の雑草の種が、二階、三階のベランダまで届いているそうだ。
お隣さんにお願いしたい。これ以上草丈が伸びて蚊が発生する前に。
これ以上その穂が元気よくなって種をまき散らす前に。
どうか、業者を呼んで刈ってほしい。
年に一度の秋だけじゃなくて、夏になる前にもぜひ一度刈ってほしい。
家の雑草だけでも大変なのに、なんで隣の雑草まで気に掛けなければいけないのか。
お隣の旦那さんの言動や、奥さんの言動や、子供の存在自体が怖いので、強くは言えず、雑草はどんどんと伸びていく。
家族ごとホラーな家の雑草には誰も叶わない。
もうじき、もっと密度を増して、梅雨にも腐らず、夏の日射しにも負けず、枯れることなくどんどんと伸びていくのだ。
団地を覆いつくす前に、どうか、誰か、あれを・・・刈り取ってほしい。
【了】
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