9人が本棚に入れています
本棚に追加
「私さ……。木本先輩と……、付き合うことにしたんだ」
麗華と共に下校をしていた春先。
何度も沈黙を繰り返していた後に、その言葉を口にした。
「……え?」
木本先輩が一瞬誰か浮かばなかったけど、お兄ちゃんのことだと分かると、私の心は何かに切り裂かれたように激しく痛んだ。
嘘。嘘だよね? お願い、そう言って。
しかし、そんな願いなど叶うはずもなく。
「実は何度も告られててさ! 私、気が弱い人はタイプじゃないんだけど、あそこまでアプローチされたらまあ良いかなって!」
早口で話す麗華の顔を、直視することが出来なかった。
あのお兄ちゃんが? 控えめで、消極的で、繊細な性格なのに何度も?
その事実に、私はその事実を認めるしかなかった。
……これは本気だ。何度も告白するなんて、それほどの想いだったんだ。
諦めると決めていたが、二人の付き合いに激しく動揺している私は、お兄ちゃんのことが好きなのだと再認識してしまった。
幸い、麗華はお兄ちゃんとの付き合いを一切話さなかったので、今までと同じ日々を過ごすことが出来た。
しかし高校三年の春、私はその現実を突きつけられた。
それは家の近所を一人歩いている、麗華を見かけたことだった。
水色のワンピースにヒールの靴、綺麗にまとめた髪。
いつもラフな格好しているのに、あれだけオシャレして、はにかんでいる姿を初めて見た。
そっか。麗華も、ああゆう顔するんだ。
その姿に、どこに向かっているかは明白だった。
最初のコメントを投稿しよう!