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「こんにちわ……。あ、お兄ちゃん!」
音楽室に入る小さな声と変わり、私は大きな声でそう叫ぶ。
お兄ちゃんも私も小中学校と合唱部に入部していて、高校も迷うことなくその門を叩いていた。
「絵美、来たね。待ってたよ! あ、お友達?」
後ろにいた麗華を見たお兄ちゃんは、いつものやわらかな笑顔を向けてくる。
「山口絵美の付き添いです! 私は入部予定はないですから! 勧誘お断り!」
ハッキリ言い切る麗華は、自分というものを持っていて、何にも流されない。
ウジウジしている私とは大違いだ。
だけど物事を言い過ぎる為に、初めての人は驚いてしまうこともある。
現に、先輩達は少し引いた表情で麗華を見ていた。
あ、付いてきてもらわなければ良かった。
麗華が先輩に目をつけられたら……。
そう思いオロオロしていると、その空気を変える大笑いが音楽室中に響いた。
「ここまでハッキリ言う子、初めて会ったよ! そんなつもりはないから、ゆっくりしていってね」
そう言いながら、麗華を椅子に座るように促すのはお兄ちゃん。
確かにお兄ちゃんはおっとりした性格だし、友達もそのタイプだろうから、麗華みたいな子に会うのは初めてだろう。
だからって何かが変わるわけではない。
何かが始まるわけでもない。
そう思っていた。
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