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「あれ?」
視線を感じた私がそちらに目をやると、そこにはお兄ちゃんが居て。一年のクラスを廊下から覗いていた。
ただでさえ挙動不審なのに、私と目が合った瞬間にビクッと反応して走って逃げて行く。
一体、何がしたいのだろうか?
そんなことが数回あり、私はお兄ちゃんを泳がせる為に死角に隠れていた。
すると休み時間にやはり現れたその人は、キョロキョロとしたかと思えば、ある一点を見つめていた。
「どーん!」
私が背後より、その肩をトンと小突くと。
「うわああああ!」
一年の廊下に響き渡る悲鳴。
お兄ちゃんはビビりで、少しのことでも怖がり大声を出してしまうほどだった。
その叫び声に驚いた他の生徒達が、何事かと駆け寄って来ては、叫んだお兄ちゃんを見てクスクス笑っていた。
三年生の威厳ゼロだった。
「え、え、絵美! どうしたの!」
「いやいやいや。どうしたの? はこっちのセリフです」
スッと入って来たのは、仁王立ちした麗華だった。
「あ、いや。なんでも……」
先程までどれだけ笑われても気にしないようだったのに、麗華に会った途端モジモジし出す。
「先輩? そんなコソコソして恥ずかしくないんですか? 来るなら堂々と来てください!」
とうとう二つ年下の一年生に怒られてしまう、お兄ちゃん。
「あ……。そうだね。これからはちゃんと会いに来るよ」
そう言い、手で首を摩りながら帰って行った。
「何あれー?」
「まあまあ。あれで必死なんだから」
「何に?」
「さあねー」
麗華は全てを見通したようにニヤニヤ笑っている。
思えば、最初の違和感はこれだった。
この時既に、勘違いは始まっていた。
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