結婚式場に響く鎮魂歌

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 夏休み前、蝉が一斉に鳴き始める頃。  部活が終わった帰り道。お兄ちゃんは私に話があると言った。 「好きなんだ……」  その言葉に胸の高鳴りを感じた私だったが、とうとうその現実を叩きつけられることになった。 「……麗華ちゃんが」  え?  その言葉に、私の時が止まった。  麗華? え? 何それ? 「……あの子、好きな人いるよ」  そう言った私は、醜い顔をしていただろう。  麗華から、そんな話聞いていない。  それなのにどうして瞬時に、こんなデタラメを口に出来るのだろうか?  己れ可愛さ故に、好きな人の気持ちを蔑ろにする。  そんな自分に吐き気がした。 「あ……、そっか。そうだよね」  無理に笑い沈みゆく夕日を眺める横顔は、あまりにも切なくて胸がギュッと締め付けられる。 「変なこと言ってごめん。じゃあ……」  その背中を見送った私は、罪悪感と共に安堵感に包まれていた。  そう言えばお兄ちゃんは諦める。  あの臆病な性格が、玉座覚悟だなんて。  そう思い自室に戻った私の目からは、ポロポロと落ちてくるものがあった。  そっか。目当ては麗華だったんだ。それを勘違いして、舞い上がってバカみたい。  自惚れていた自分と、あんな嘘で大好きな人を縛り付ける自分が嫌になり、沈んでゆく太陽みたいに消えてしまいたかった。  もう、諦めるしかない。  お兄ちゃんの恋を邪魔した私が、幸せになれる訳ない。  だからこの気持ちに、そっとフタをした。  それから夏休みに入り、合唱コンクールを最後に三年生は引退。  二学期に入り、お兄ちゃんが一年の教室に来ることはなくなった。  これで良いんだ。これで。  気付けば寒い冬を乗り越え春を迎え、三年生は卒業する。  お兄ちゃんは地元の大学に進学が決まっているけど、高校生と大学生なら生活も変わっていくだろう。  こうして離れていけばいい。  そのうちに私にも好きな人が出来て、お兄ちゃんに彼氏だって紹介して。こうして前と同じ関係に戻って。だから。  そう自身に言い聞かせていた三月中旬。  一年生が終わろうとした時、私はこの事実を知った。
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