結婚式場に響く鎮魂歌

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 もう嫌だ。こんな現実見たくない。  だから私は、高校卒業と同時に家を出ると決めた。  以前より夢だった、音大に行きたいと両親に頼み込んだ。  それだけで生計を立てられる程、甘い世界じゃないことは分かっている。  だけど挑戦してみたかった。 「東京の音大に行こうと思うんだ」  高校三年の秋。そう麗華に話した。 「そっか。そうだよね。絵美はもう一人で飛び立てるから大丈夫だよね?」 「……うん」 「頑張って。応援しているから」 「ありがとう」  私はそう言い残し、東京に行った。  そこならまた新たな出会いがある。  お兄ちゃんを思い出に変えられる。  そんな高校時代あったと笑える。  そんな一心だった。  だけど、そんな恋は長続きしなかった。 「絵美。俺のこと好きじゃないよね?」  初めて付き合った人にそう言われた。  それはそのはず。  私はずっと、お兄ちゃんと比べていた。  あの笑顔。あの声。あの優しさ。あの歌声を求めてしまい、彼はそんな私を見透かしてきた。  どうして私は、お兄ちゃんじゃないとダメなのだろうか? 何度考えても、その答えは出て来なかった。
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