結婚式場に響く鎮魂歌

9/13
前へ
/13ページ
次へ
 上京して二年。二十歳になった私は、成人式で帰省することになった。  二人とはたまに連絡を取り合っていたけど、メッセージには互いのことは書いていない。  ……もしかして別れたんじゃないか?  一瞬過った期待。  それなら私にも、入る余地はあるかもしれない。  麗華からしたら複雑だけど、ずっと好きだったと言えば告白ぐらい許してくれるよね。  そう期待して帰省した私は、美容院でピンクの振り袖を着付けしてもらい会場に向かう。  するとそこには、ソワソワとしている一人の男性。  あ、これ前にも見たことがある。  お願い、麗華。来ないで。 「絵美。久しぶり」  しかしその願いは叶うはずもなく、美しい赤の振り袖を身にまとった麗華は、この二年ですっかり大人の女性に変わっていた。  すると私達に近付いてくる一つの影。  誰かなんて分かり切っていた。 「あれ? 裕一郎、居たの?」 「麗華! ……いや、散歩だよ!」  分かりやすい挙動不審な人は、やっぱりお兄ちゃんだった。 「じゃあ帰って。そうじゃないと、通報してやるから」 「はは。敵わないな。絵美も綺麗だよ。じゃあ」  そう言いつつ、見ている先は。  ……うそつき。全然見てないくせに。  帰ってこなければ良かった。せっかく振り袖着たのに。  成人式が終わったら、お兄ちゃんところに挨拶に行こうと思っていたけどその必要なく、ただ惨めだった。  それから帰省はやめ、二人から連絡が来ても忙しいからと返さずに距離を取った。  二十二歳で音大を卒業して、アルバイトと本職の掛け持ちし生計を立てている現状。  生活は不安定だけど、最近は少しずつ本職の方も仕事が入ってきて実績も作り始めていた。  そんな六年後。久しぶりに麗華から電話がかかってきた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加