透明なこの世界を、きみが色づけるから

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『きゃあああああっ!!』 「うわああっ!」  スクリーンの役者が叫ぶ度、慎太郎(しんたろう)も体をびくっと震わせ叫ぶ。  並んで座る私も手に薄っすらと汗を掻いていた。  前もって調べてきた情報によると、このパニック映画は韓国内でも大ヒットしたらしい。  たしかに出てくるゾンビたちもリアルで迫力があるし、俳優さんたちも演技が上手くてハラハラさせられた。  でも、それ以上に 「ぎゃあっ! まじかーっ!」  隣の席の慎太郎のリアクションが大きすぎて、つられて私までびっくりしてしまうのだ。  始めは「静かにしたほうがいいよ」と注意しかけたけど、気がつけば他のお客さんも「うおー!」とか「やだやだやだ!」とか叫んでいた。  私は叫ばなかった。私だけは、どうしても叫べなかった。  冷めているんだということを改めて自覚する。  でも、この空間にいることがすごく楽しかった。 ――「楽しい」。  子どもでも知っているようなその言葉を噛みしめ、胸に手を当てる。  他人と一緒にいて「楽しい」と感じるなんて、いつ以来だろう。  隣を盗み見る。画面に目が釘付けになっていた慎太郎が私の視線に気がつき、こちらを振り返る。 「どうかした?」  小声で訊かれ、慌てて首を横に振り、スクリーンに向き直る。 『ぎゃあああああっ!』  映画の中では、大勢の人が次々に殺されている。  それなのに、私の口元はどんどん緩んでいった。  
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