透明なこの世界を、きみが色づけるから

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「いた……」  耳を押さえ、顔を上げる。  いつの間にか、目の前にはクラスメイトの女子三人が立っていた。校則違反である派手なメイクが施された顔は、それぞれ意地悪そうに歪んでいる。  真ん中の女の子の手には、私の右耳から引っこ抜かれたばかりのワイヤレスイヤフォンが乗っていた。 「アハハハハ! 『いた……』だって!」 「痛がる時も無表情なんだ!?」 「御園(みその)さん、ウケるんだけどー!」  三人の笑い声が昼休みの室内に響く。  ここ、高校の校舎の最上階にある多目的室は私のお気に入りの場所だった。鍵が壊れていて、出入りし放題なのだ。  でも誰も気がついていないみたいで、私はずっとこの部屋を独占できていた。友達がいない私には天国のような場所だった。  それなのに、とうとう私以外の人たちに見つかってしまったらしい。 (でも)  怒りも悲しみも沸いてこない。「明日からどこに避難しよう?」と考えるだけ。 「……なんか言えよ」  右端の女の子が睨みつけてくる。私が無反応でいるのが気に食わないらしい。 「てか御園(みその)さん、めっちゃキモい映画見てんだけど!」  左端の女の子が私のスマフォを覗き込んで喚きだす。  画面にはちょうど、男の人が恐竜に頭からかじられているシーンが映し出されていた。 「一人で多目的室こもってこんなキモい映画見るとか……、あ! ちょっと!」  私は不意をついてイヤフォンを奪い返し廊下へとび出した。 「はあ、はあ、はあ……」  階段を駆け下りて中庭にたどり着いた頃には、息が上がっていた。薄く汗を掻いてしまい、カーディガンを脱ぐ。  色を変え始めた楓の下のベンチには、上級生たちの姿があった。来月の文化祭の話で盛り上がっている。  楽しそうな姿を見て、ふうとため息をついた。  私は、学校行事が嫌いだった。
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