透明なこの世界を、きみが色づけるから

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 この高校では、毎年六月に「合唱祭」が開催される。十月の文化祭の次に大きなイベントだ。合唱は審査され、順位も発表される。  私の所属する一年五組は、惜しくも準優勝だった。 『ほんと悔しすぎるー!』 『ごめん、私もっと大きい声出せればよかった』 『しょうがないって。ずっと風邪引いてたんだからさぁ……』  クラスメイトの女の子たちは、会場となった体育館の隅でわんわん泣いていた。  私は彼女たちを眺めながら、「いいなあ」と羨ましく思っていた。 ――合唱祭くらいで号泣できて、いいなあ。  それが、正直な気持ちだった。  物心ついた頃から、私は冷静だった。  滅多なことでは笑わないし、泣きもしない。  小学生のとき、学校の階段から落ちて骨折した。でも私が無表情だったから、養護の先生に「平気そうだ」と勘違いされてしまい、なかなか救急車を呼んでもらえなかった。  この高校の合格発表のときも無表情だった。だからお母さんが「不合格だった」と思い込んで号泣した。  体育館の時計を見上げ、もう昼休みになっていることに気がつき、その場を去ろうとした。  そうしたら、私に気がついた女の子の一人に呼び止められた……、というよりも、怒鳴られた。 『御園(みその)さんは悔しくないわけ!?』  振り返ると、さっきまで泣いていた子たちが私を睨みつけていた。 『あんたがやる気無いせいで優勝逃したんじゃん! 謝れよ!』  言いがかりだ。  でも、謝れば丸く収まると思ってすぐに頭を下げた。  それなのに教室からは私の居場所が無くなった。持ち物の変更や、課外授業の日程変更を知らせる連絡網も来なくなった。その日までは一緒にお喋りしていた子まで、私を無視するようになった。  けれどやっぱり、悲しいとか悔しいとか、人並の感情は起こらなくて。  ただただ人間関係が煩わしいと感じるばかりだった。  
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