透明なこの世界を、きみが色づけるから

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 中庭のベンチで映画の続きを観ていると、誰かに肩をつんつんと突かれた。  スマフォから顔を上げる。  気がつけば隣に見知らぬ男の子が座っていた。  彼は私を眺めながら人懐こそうな笑みを浮かべている。髪も肌もお手入れしているのか、女子である私よりもきれいだった。  彼の上履きの色は私と同じ緑色で、同学年であることがわかる。でも、同じクラスではない。  彼が私の膝の上のスマフォを指し何か話し掛けてくるので、イヤフォンを外した。 「なに観てるの?」 「え? えっと……」  恐竜が出てくるパニック映画だと答えると、彼は目を輝かせた。 「えっ、そのシリーズ好きなの!? 俺も好きなんだよね! でもこんなシーンあったっけ?」 「これ、最新作だから。昨日ネッフリで配信されたばかりで……」  彼の「まじで!?」という声が秋の空まで響き渡る。 「もう配信されてるんだ? 今日帰ったら絶対観よっと!」  彼は三作目が一番好きだという話や、ロケ地の話を一通り喋った後、「俺、一組の春川慎太郎(しんたろう)」と自己紹介をした。 「今、仲が良いやつら委員会に行っててさ。ヒマだったんだよね。名前は?」 「御園(みその)」 「下の名前は?」 「(ゆめ)」 「夢、か。良い名前じゃん。よろしく、夢。映画の話できる知り合いできて嬉しい」  手を差し出されたので、握手を交わす。  男の子の手の大きさと骨っぽさを初めて知った。 「よろしく、春川くん」 「慎太郎でいいよ」  彼がにこっと笑うと同時に、チャイムが鳴った。 「夢は明日もここに来る?」 「えっと」  私は少し考え込んで、「多分」と返事をした。多目的室は安全地帯ではなくなってしまったからだ。 「じゃ、一緒にここで昼飯食べようぜ! じゃーな!」 「え?」 「いいよ」とも「嫌だ」とも返事しないうちに、彼は去ってしまった。  私も教室に戻らないと、と思いながら自分の右手を見下ろす。  彼に触れた手のひらが、やたらと熱っぽい。
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