1人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
中庭のベンチで映画の続きを観ていると、誰かに肩をつんつんと突かれた。
スマフォから顔を上げる。
気がつけば隣に見知らぬ男の子が座っていた。
彼は私を眺めながら人懐こそうな笑みを浮かべている。髪も肌もお手入れしているのか、女子である私よりもきれいだった。
彼の上履きの色は私と同じ緑色で、同学年であることがわかる。でも、同じクラスではない。
彼が私の膝の上のスマフォを指し何か話し掛けてくるので、イヤフォンを外した。
「なに観てるの?」
「え? えっと……」
恐竜が出てくるパニック映画だと答えると、彼は目を輝かせた。
「えっ、そのシリーズ好きなの!? 俺も好きなんだよね! でもこんなシーンあったっけ?」
「これ、最新作だから。昨日ネッフリで配信されたばかりで……」
彼の「まじで!?」という声が秋の空まで響き渡る。
「もう配信されてるんだ? 今日帰ったら絶対観よっと!」
彼は三作目が一番好きだという話や、ロケ地の話を一通り喋った後、「俺、一組の春川慎太郎」と自己紹介をした。
「今、仲が良いやつら委員会に行っててさ。ヒマだったんだよね。名前は?」
「御園」
「下の名前は?」
「夢」
「夢、か。良い名前じゃん。よろしく、夢。映画の話できる知り合いできて嬉しい」
手を差し出されたので、握手を交わす。
男の子の手の大きさと骨っぽさを初めて知った。
「よろしく、春川くん」
「慎太郎でいいよ」
彼がにこっと笑うと同時に、チャイムが鳴った。
「夢は明日もここに来る?」
「えっと」
私は少し考え込んで、「多分」と返事をした。多目的室は安全地帯ではなくなってしまったからだ。
「じゃ、一緒にここで昼飯食べようぜ! じゃーな!」
「え?」
「いいよ」とも「嫌だ」とも返事しないうちに、彼は去ってしまった。
私も教室に戻らないと、と思いながら自分の右手を見下ろす。
彼に触れた手のひらが、やたらと熱っぽい。
最初のコメントを投稿しよう!