透明なこの世界を、きみが色づけるから

5/11
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 次の日、慎太郎(しんたろう)は本当に中庭で私のことを待っていた。  私が昨日観ていたパニック映画をさっそく視聴したらしく、熱い感想を伝えてくる。 「脚本もCGの技術もレベチだったなー! B級パニック映画も嫌いじゃないけど」 「慎太郎、パニック映画好きなの?」  お弁当がらのごみを片付けながら私は訊く。 「好き好き! ぎゃあぎゃあ言いながら観るのが好きなんだ。もしかして夢も?」  下の名前で呼ばれ、こそばゆく感じながら「うん」と頷いた。  実は私も、パニック映画が好きだ。時間さえあれば恐竜や鮫やゾンビが出てくる作品を視聴している。両親は「悪趣味だ」と言ってくるけれど、やめられなかった。  少しだけ――本当に少しだけ――ドキドキすることができるからだ。ラブストーリーやヒューマンドラマでは途中で寝てしまう。 「じゃあ今度の土曜日ヒマ? 駅前の映画館行こうぜ」 「映画館?」 「韓国のゾンビ映画が公開されるんだ。でも一緒に行ってくれるやつがいなくてさ。……スマフォ出して!」 「え? うん」  言われるがままにスマフォを出す。顔認証ですぐにロックが外れた。  彼は私のスマフォ画面を勝手に操作し、SNSアプリを立ち上げアカウントを登録してしまう。 「時間とか決まったら連絡するから!」  チャイムが鳴り、彼は焼きそばパンの入っていた袋を潰して校舎に戻ってしまう。  私はただただ後ろ姿を見送った。  慎太郎は強引だ。  でも、不思議と「嫌だ」とは感じなかった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!