透明なこの世界を、きみが色づけるから

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 土曜日。  約束の十五分前に、待ち合わせ場所である駅の改札前に到着した。  コンコースの隅で鏡を取り出し、髪型やメイクのチェックをする。今着ているワンピースにも入念にアイロンをかけてきたし、抜かりはないはず。 (ちょっと気合入りすぎかな……?)  今日は同じ学校の友達と映画を観に行くだけだ。もっとラフな格好でもよかったかも、と思い直す。  これではなんだかデートみたいだ。 (あれ……?) 「デートみたい」と考えた途端に、なんだか頬が熱い。胸もドキドキしてくる。 (だ、だからデートじゃないってば!)  自分自身に言い聞かせるのに、鼓動はどんどん早くなっていく。こんなことは今までになかった。習い事の発表会だって入試の面接だって、少しも緊張しなかった。  だから、この胸のドキドキをどうやって押さえればいいのかわからない。  どうしようとうろたえているうちに「夢!」と呼ばれ振り返る。  改札を通り抜け、ストライプの襟付きシャツとパンツを合わせた慎太郎がやってくる。シンプルな装いだけど、彼によく似合っていた。ワックスを使っているのか、前髪がかき上げられている。学校にいる時よりもずっと大人っぽく見えた。 「かっこいい……」  ついぽつりと感想を呟くと、慎太郎は照れくさそうに「ありがとう」と笑う。 「夢もかわいいよ」  さらりとそんなことを言われて、火が付いたみたいに顔が熱くなった。 「えっ、わ、私なんてそんな」 「謙遜(けんそん)することないって! もしかして気がついてない? 夢ってかなり可愛いよ?」 「そ、そんなことないってば!」  恥ずかしくて堪らなくなり、私は速足で映画館のほうに歩き出す。後ろを追いかけてくる慎太郎は「本当なのになあ」なんて言っている。  私はどんどん速度を上げた。  タコみたいに赤くなっている顔なんて、見られたくなかった。
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