透明なこの世界を、きみが色づけるから

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「いやー、やっぱ映画館で観ると迫力違うよなー!」  慎太郎(しんたろう)はファミレスのドリンクバーのメロンソーダをすすりながら、ずっと映画の話をしている。相当気に入ったらしく、パンフレットを購入したほどだった。 「夢は? 面白かった?」 「うん。すごく」  アイスティーにポーションミルクを溶かしながら頷く。 「そっか。ならよかった。ほっとした」 「え?」  私は首を傾げた。 「だって、リアクション薄かったからさ。つまらなかったのかなと思って」 「……」  ぱちぱちと瞬きをし慎太郎を見つめ返す。  私は今日、楽しかった。すごく楽しかった。  それなのに、反応が薄すぎるせいで慎太郎を不安にさせていたらしい。 「わ、私ね……」  グラスを支える手にぐっと力が入る。 「小さい頃から感情の起伏が薄いの。感情を顔に出すのも苦手。だから、周りからは冷たいとか、やる気ないとか思われるみたいで……」  それが原因で、私は教室に居た堪れなくなった。 「でも、今日はすごく楽しかった。本当なの。慎太郎といると、すごく楽しい」  視界がぼやけていく。  クラスメイトたちにはどう思われていてもいい。  でも慎太郎にだけは「冷たい」だなんて思われたくなかった。 「慎太郎、嫌わないで……」  頬が濡れていく。せっかくメイクをしているのに。でも、涙の止め方なんてわからない。  ハンカチを出して顔を埋めていると、急に肩が温かくなった。見ると、自分の肩に慎太郎の大きな手が乗せられている。 「嫌いになんて、なるわけないじゃん」  手の持ち主は、優しく微笑んでいた。 「夢のこと、むしろ尊敬するよ。俺は顔にすぐ出るタイプだからからトラブルになりやすいし。それに……俺も夢といるの、すげえ楽しいよ!」 「慎太郎……」  彼の朗らかな笑顔に、やっと涙が止まった。  胸が温かくなっていく。 「ありがとう、慎太郎……」  そう言うと、手を引っ込めた彼は、なぜか目をぱちくりさせて私を見つめ返した。 「な、なに?」 「いや、笑った顔、めっちゃ可愛いなって」 「えっ? 突然なにっ?」  驚きすぎて、グラスをテーブルの上に倒しそうになってしまった。今日、改札前で待ち合わせた時みたいに顔が熱くなっていく。 「か、可愛くなんてないし。というか、私、笑ってた……!?」 「めっちゃいい笑顔だったぜ? あー、写真撮っておけばよかった。もう一回笑ってよ」 「恥ずかしいよ! 絶対笑わないから!」  慎太郎がスマフォのレンズを向けてくるから、必死になって手のひらで遮った。  そんな私を見て彼はにこにこしている。 「……また、映画に誘ってもいい?」  ぶんぶん振り回していた手を、慎太郎の手がつかまえてしまう。 「また観に行こうよ」 「うん……」  私は頷く。 「私もまた、慎太郎とパニック映画観に行きたい。慎太郎とか他のお客さんがきゃあきゃあ言ってるとこ、見たいな」  そう言うと、慎太郎はぷはっと笑い出した。 「なんだそれ、悪趣味」  彼はけらけらと笑い続ける。 「映画もいいけど、映画じゃなくてもどこでもいい。夢を笑顔にできるところなら」 「……」  手元に鏡は無かったけれど、私はきっとまた笑顔になっていたに違いない。  
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