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四月十六日。深夜の子守峠に一台の運送トラックが通りかかった。
運転手の渡辺和樹は尿意をもよおし、峠でトラックを止め、真っ暗な車外に出た。周囲には建物も無ければ、外灯も無い。
渡辺はトラックのヘッドライトを頼りに、草むらに行って用を足そうとした。その時、誰かに声をかけられた。
「もし、そこのお方」
渡辺は飛び上がるほど驚いた。こんな夜中の山道に人がいる訳が無い。
振り返ると、若い女が立っていた。
その姿は一目で異様だと分かった。赤い和服を着ていたのだ。おかしな点はそれだけではなく、女はヘッドライトが当たらない暗闇に立っているにも拘わらず、妙にその姿がはっきりと見えた。
渡辺は直感的に、女がこの世の者ではない事を悟った。
女が言う。
「この子が夜泣きをするので、一緒に子守唄を歌ってください。この子の父親の代わりに」
女は白い布にくるまれた赤ん坊を両手で抱きかかえていた。よく見ると、その赤ん坊には首が無かった。首の断面から赤い肉が覗いている。
渡辺は悲鳴を上げてトラックの中へ逃げようとした。
「どこに行くのです?」
女は突如として渡辺の前に現れ、トラックへの進路を塞いだ。数秒前まで後ろにいたはずなのに。
渡辺は半狂乱になりながら峠の道を走り、女から逃げた。
「なんて冷たい人」
女はそう呟くと、必死で逃げる渡辺の前方にまた現れた。その手には出刃包丁が握られており、渡辺の胸に深々と突き刺った。渡辺は呻き声を上げて倒れた。
女は渡辺を見下ろしながら言った。
「ああ、血がもったいない。全部飲み干しましょう。いいお乳を出すために。可愛い坊やのために」
女はしゃがみ込むと、渡辺の傷口に吸い付いた。
翌日、子守峠で渡辺の遺体が発見された。遺体は刃物で全身を複数箇所刺されており、男性器が切り取られ、遺体の口に詰め込まれていた。
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