下手クソな男

1/1
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

下手クソな男

さつきはとても機嫌が悪い。 目の前にいる男と付き合ってから、少しずつ少しずつ不満が募り、今、限界が来た。 とにかく何もかもが下手クソなのだ。 プレイもセックスも。女の扱いも。 「さっちゃん、怒ってる?」 「怒ってる?って聞く男は全員爆発しろ」 「やっぱ怒ってる。ねえ、ごめんね、なんか」 「理由もわからず謝る男も全員消滅すればいい」 「だって、さっちゃんだってやりたがってたじゃん」 そうだ、さつきが始めたことではあった。だけど、そういう事を言っているんじゃない。 それに、不利になると人を攻めるいつもの男のやり方にも心底腹が立つ。 「そうだけど、やめてって言ったら止めるでしょ?」 「いやよいやよも好きのうちって」 その言葉でさつきはキレた。 「おい、マジのやつ見逃すポンコツがそのセリフを吐くんじゃねぇよ。先っぽ縫い閉じられたいか?」 この男はいつもそうだった。 自分勝手に、自分の気持が良いことだけをして、勝手に果ててしまう。不満を漏らすと過剰サービスを発動。だけど無理やり進めるから、気持ちいいのを通り越しても延々と続けて、やめろと言うと余計にやる。終いにはさつきが怒りだす。 「おまえ、一生一人でやってろ。下手クソ」 「やだよ」 「口答えするな」 「さっちゃん、黒さっちゃん出てきてるよ」 「剛、なあ、つ、よ、し、くん。黒さっちゃんじゃないの、どっちも本当のさっちゃん様なの」 「ごめんなさい」 「何に謝ったんだ?」 「あ、えと、無理やりしたこと」 「チッ」 「腕、出せ、ポンコツ」 さつきはスルスルと剛の腕に縄を巻き始めた。 「さっちゃん、やめて」 やめて。 そう言った剛の顔をじっと見てみる。 「やめて」 (もっとして) 「お前は本当に正直でわかりやすいなあ」 縛った腕を上に、足を開脚して左右に縄を引く。 最後に目隠しの布を巻いた。 長椅子に固定された剛は、骨董の皿みたいにしっとりと艷やかだ。滑らかな皮膚に覆われた肉は、膨らみやくびれのメリハリが美しい。 先端や輪郭を指でなぞって形を確かめる。 汗でしっとりとした肌が、ときどきその指を引き止める。 「もう、やめてよ、さっちゃん」 (もっと、もっとして、さっちゃん) 「フフ、やめてって言ったの?わかった。やめるよ」 さつきは剛をそのままにして、すぐ近くの椅子に腰掛けた。 それからじっと、剛を見つめた。 普段はおしゃべりで軽薄な剛が無言でいる。 だけどその口から漏れてくる呼吸音は荒く湿っていて、とてもうるさい。 「その音、すごく良いよ。お前の口から出る音は、全部それでいい」 下手クソには理由がある。 上手になったら自分の役目になってしまうから。 剛は上手くなる気がまるで無かった。 だって上手になっちゃったら、今受けている自分の幸せは無かったからね。 「やめて、ねえ、やめてよ、お願いだから」 だけどやっぱり いつまでたっても わがままな男 わがままで 下手クソで かわいい 私の。 End
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!