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火曜日金曜日
家族を送り出し身支度を済ませると、家中の屑籠からゴミを集める。キッチンの最後の生ゴミをビニールに入れ、燃えるゴミ用の袋に全てブチ込む。
火の元OK、鍵、お弁当、ゴミ袋、全て持って戸締まりをする。
マンションのゴミ収集場所へ袋を放り投げてから、駐車場の車に乗り込みエンジンをかけた。
火曜と金曜日は燃えるゴミの日。
そして私のアルバイトの出勤日でもある。
車を走らせて十分、幹線道路と交わる道の角にその店はある。
リフレクソロジーがメインのリラクゼーションのお店だ。
この仕事を始めてまだ一年。
普通の接客と違ってお客様の肌に直接触るからとても気を使う。だけど、それ以上にものすごく楽しい。
人間の肌って気持ちがいいし、自分の施術でお客様が満足してくれるのは、この上なく嬉しい。
ありがとうとか、気持ちがいいとか、すごいね、なんて言ってもらえる。
普段はそんなこと、誰にも言われない。
やって当たり前、いて当たり前の、お母さんで奥さんなんだから。
「いらっしゃいませ、四十分リフレと、二十分ボディですね。承りました。こちらでお着替えお願いいたします」
施術用のハーフパンツに着替えてもらい、まずは仰向けで取りかかる。
薄いゴム手袋をしているから肌に直接触っているわけじゃないけど、ボディの時みたいに分厚いタオルは無い。
それだけ肌には近い。
足の甲に手を添えて足裏の中心に人差し指の第二関節を突き出して当てる。場所を決めたら身体全体をそこに埋めるように押し当てる。
大体の人はここでビクビクと痛さを堪能する。
そのままの圧で土踏まずに向かって滑らせると、8割位の人から声が聞こえる。それを何度か繰り返す。そのビクビクは痛さの奥から快感を連れてくる。
足の先に伝わるビクビクが逃げてしまわないように私の手で抑え込んでやる。だけど、その痛みが不快になってはいけない。ビクビクの奥にある、お客様の「気持ちいい」を常に保ちつつ、痛さの限界までやるのだ。
特に足の指は痛みを感じやすいから少し気を使う。でもそんな時は指の間をスルスルと柔らかく優しくしてあげるといい。指の間って気持ちがいいみたい。足の裏には毛穴なんてないのに、鳥肌が立っているような気がするくらいだから、すごくいいんじゃないかな。
この、鋭く刺すような痛みとその奥にある快感を同時に与えると、脳はときどき混乱するみたいだ。だからなのか、おかしくなっちゃう人もいる。
「ちょっと、力弱めましょうか。痛くないですか?」
たまにバグっちゃってる人に聞くこともある。
だけどそういう人はたいていこう言うんだよな。
「いえ、大丈夫です。もっと、お願いします」
だから私はやりたいようにやらせてもらっている。
私を指名してくれる人はおとなしくてあまりしゃべらない人が多い。それに、痛いのは苦手だって言ってたはずなのに、私のは平気みたい。ほんと、不思議。
苦痛と快感のギリギリのライン。その人のギリギリはどこなんだろうと考える。
薄いゴムを嵌めた手にオイルをたっぷりと取り、今日も苦痛と快感を与えている。
これは体の中にあるゴミを出す作業。
苦痛と快感の間で揺れて、心のゴミも燃やしてしまう。
その手伝いをしているだけ。
その人の奥深くから、ゴミをあつめてあげてるだけ。
それが私にとっての快感なんだと、最近やっと気が付いた。
足から伝わるビクビクに、喉から漏れる声に。
痛みを我慢しているのか、それとも快感に滑り落ちそうなのを堪えているのか、ギュッとタオルを掴む手に私はなぜかゾクゾクとしてしまうのだ。
「ぁあっ」
今日もまた、ゴミを出したい人が来る。
「ここ、痛いですよね。もうやめますか?」
「いえ、大丈夫です。もっと、お願いします」
みんな、欲張りだなあ・・・
「耐えられないほどなら、弱くしますけど、頑張れますか?」
「平気です・・・がんばりま・・す・・」
かしこまりました。
ではもう少し。
「ぁ、っはぁ・・ぃぎい、イイっ」
End
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