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滑稽の解決策
女は煙草に火を付けてひと口吸うと、床に座って後片付けをしている男を見ながら煙を吐いた。
シートは敷いたものの勢い余って飛び散ってしまった蝋や液体を拭いたり剥がしたり。電動の道具やその他も綺麗に後始末をつけている。
「なんか、もう、無理かも」
「え?」
「あのさ、その、それ、楽しいの?」
「片付け?まあ、楽しいよ。これが終わるまでが一連だからさ。それに、達成感とか?あと、道具大事だし」
「まあ、そうだけど」
女はさっきまで目の前にあるその縄で縛られ、蝋を垂らされていた。男は丹念に女を楽しみ、鞭を打ち、数々の言葉を浴びせ、また、女もそれに没頭していた。
だけど。
「私、それ見ると、自分が恥ずかしくなって逃げたくなるんだよね」
「じゃ、先帰る?」
「でもさ、あなたが片付けるんでしょ?」
「もちろん」
「それだよ。主がさ、パンイチでカリカリしてんの情けなくて見てられない」
「じゃ、そっちがやれよ」
男がそう言うと、女は煙草をふかしながらまだ束ねられていない鞭を手に取った。
「なんかなー、そういうことじゃないんだよなー」
投げやりに返事をして、手にしたバラ鞭で素振りを始めた。
いつもこれを受けている。どこに当たると良くて、どこだとイマイチか、体が知っている。
「これちょうどいい痛みだから好きだけど、ビジュアルはやっぱり一本鞭がいいイイね。まあ、難しいらしいけど」
腕の内側に軽くバラ鞭を当ててみる。
心地の良い感触だ。
こういう道具を一人で手入れするのは好きなのだけど、没頭したあとに片付けを見たり、見られたりするのは、興醒めしてしまうのだ。
と、四つん這いになって片付けを続けている男の尻が目に止まった。
ピッタリとしたボクサーパンツが引き締まった形の良い肉を包んでいる。膝をつけて床を拭く男の、少し開いた足の隙間からは美味しそうな膨らみがちらりと覗く。
あ。
考えるより先に体が動いていた。
左足を踏み込み、右手に持ったバラ鞭をスイングする。
バチ!
ぎゃっと声を上げ突っ伏した男が顔だけこちらに向けていた。
(しまった)
女は男に対してしたことを後悔した。
彼氏との遊び半分のプレイとは言え、一応主従関係である。
しかし。
バチ!
体が勝手に動いていた。
テニスの素振りのように振られたバラ鞭のヒラヒラが足の間から入り、その膨らみを裏からしっかりと捉えてしまった。
連続して打たれた男はまた悲鳴を上げ、自分の股間をつかんで悶絶した。
「ぁはっ」
涙目の男が見たものは、満面の笑みで鞭を掲げた女の姿だった。
「ちょ、やめろって。なんで?」
「私さ、あんたのその姿、片付けてる姿嫌い。私を責めてる時と別人だから。でもさ、私はその役をやりたくないし、もしやってても見られたくないの。現実に戻されちゃうから」
女はまた男を一つ打つ。
「っ、うぐぅ」
「いい声出すねぇ・・・。でね、ちょっとだけ思いついたの。解決法を」
「ちょっと、おい、待てよ。おまえ何のつもりだよ!」
まだ痛みで動きにくそうな男の肩を、足で押し仰向けにしてから顔を軽く打った。男は股間から手を離し、うめき声とともに顔を覆う。
女はもう一度鞭を打ち込んだ。手が離れ無防備になったそこを狙って確実に仕留める。
スイングはアンダースローだ。
大きく叫び悶絶する男を見下ろす。
全身に血がどっと流れ、急に視力が上がったかと思うほど、眼の前がクリアだ。
「それくらいでギブアップなの?私はもっと強いのでも平気だったのに。あんたって、もしかして弱い?」
「お、男なんだから・・・ここは誰でも無理だって!」
絞り出すように言った男の額には脂汗。
体を縮めて震えているのだ。
「まあ、いいや。少しずつ慣らしていくから」
震える男にそっと手を当てる。
頭を撫で、顔を撫でる。
「怒ってる目だ。んふふふ。ほら、それやるの好きなんでしょ?早くやりな。それとも、もう一発欲しいの?」
女は片付けの続きを促した。
片付けをさせながら、男の足や腕を動かせる程度の距離を保って縛り上げていく。
両手首は20センチほど距離を開けた。
足は肩幅程度の距離を開け、縛った。
「これで動けるね」
男の腰に回した縄は、その先を鎖に編んで左手に持つ。
「ここ、痛かった?」
男を苦しめた膨らみ。
その柔らかい塊をそうっと右手で包み込み、ゆっくりと撫でたっぷりと練る。
男の口からは甘い溜息が聞こえてくるが、塊から続く男の分身はまだ頭を垂れたままだ。
しかしその芯は少しだけ強さをのぞかせていた。
ボクサーパンツをめくり左の尻をむき出しにした。ツヤツヤとした形の良い肉が、まるでモッツァレラチーズのように白く光っている。その尻の頬をつるりと舐めてから大きく口を開け噛みついた。かみちぎるくらいの強さで歯をギリギリと肉に染み込ませる。うめき声とため息が交差している。
右の掌中にある先程の柔らかい塊も、同時にゆっくりと撫でたっぷりと練る。
苦痛と快感は同時に与えられ融合していく。
快感が苦痛に感じるのか、それとも苦痛すら快感になるのかは男次第だ。
黙って女を受け入れてふるふると震える男の後ろ姿が、すでに答えになっている。
男の顔は屈辱に歪んでいたが、顔以外ははまるで違う人間のようだ。
そして片付けが済む頃には、来たときとは逆の立場で二人は対峙していた。二人は高揚感に包まれ、それは今までで一番強い。
片付けをする男の姿が今はもう嫌いではなくなっていたことに、その時女は気付いた。
End
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