12人が本棚に入れています
本棚に追加
下手クソな男
さつきはとても機嫌が悪い。
目の前にいる男と付き合ってから、少しずつ少しずつ不満が募り、今、限界が来た。
とにかく何もかもが下手クソなのだ。
プレイもセックスも。女の扱いも。
「さっちゃん、怒ってる?」
「怒ってる?って聞く男は全員爆発しろ」
「やっぱ怒ってる。ねえ、ごめんね、なんか」
「理由もわからず謝る男も全員消滅すればいい」
「だって、さっちゃんだってやりたがってたじゃん」
そうだ、さつきが始めたことではあった。だけど、そういう事を言っているんじゃない。
それに、不利になると人を攻めるいつもの男のやり方にも心底腹が立つ。
「そうだけど、やめてって言ったら止めるでしょ?」
「いやよいやよも好きのうちって」
その言葉でさつきはキレた。
「おい、マジのやつ見逃すポンコツがそのセリフを吐くんじゃねぇよ。先っぽ縫い閉じられたいか?」
この男はいつもそうだった。
自分勝手に、自分の気持が良いことだけをして、勝手に果ててしまう。不満を漏らすと過剰サービスを発動。だけど無理やり進めるから、気持ちいいのを通り越しても延々と続けて、やめろと言うと余計にやる。終いにはさつきが怒りだす。
「おまえ、一生一人でやってろ。下手クソ」
「やだよ」
「口答えするな」
「さっちゃん、黒さっちゃん出てきてるよ」
「剛、なあ、つ、よ、し、くん。黒さっちゃんじゃないの、どっちも本当のさっちゃん様なの」
「ごめんなさい」
「何に謝ったんだ?」
「あ、えと、無理やりしたこと」
「チッ」
「腕、出せ、ポンコツ」
さつきはスルスルと剛の腕に縄を巻き始めた。
「さっちゃん、やめて」
やめて。
そう言った剛の顔をじっと見てみる。
「やめて」
(もっとして)
「お前は本当に正直でわかりやすいなあ」
縛った腕を上に、足を開脚して左右に縄を引く。
最後に目隠しの布を巻いた。
長椅子に固定された剛は、骨董の皿みたいにしっとりと艷やかだ。滑らかな皮膚に覆われた肉は、膨らみやくびれのメリハリが美しい。
先端や輪郭を指でなぞって形を確かめる。
汗でしっとりとした肌が、ときどきその指を引き止める。
「もう、やめてよ、さっちゃん」
(もっと、もっとして、さっちゃん)
「フフ、やめてって言ったの?わかった。やめるよ」
さつきは剛をそのままにして、すぐ近くの椅子に腰掛けた。
それからじっと、剛を見つめた。
普段はおしゃべりで軽薄な剛が無言でいる。
だけどその口から漏れてくる呼吸音は荒く湿っていて、とてもうるさい。
「その音、すごく良いよ。お前の口から出る音は、全部それでいい」
下手クソには理由がある。
上手になったら自分の役目になってしまうから。
剛は上手くなる気がまるで無かった。
だって上手になっちゃったら、今受けている自分の幸せは無かったからね。
「やめて、ねえ、やめてよ、お願いだから」
だけどやっぱり
いつまでたっても
わがままな男
わがままで
下手クソで
かわいい
私の。
End
最初のコメントを投稿しよう!