夏希side

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イチゴを洗って、入れ物に移していく 「ねぇ、夏。ケーキが美味しいオススメのカフェ知らない?」 「受験生が余裕だな。デートか?」 「こんなに夏とばっかり居る俺に彼女が居たら、俺、すっごく冷たい彼氏じゃん」 「でも、雪は甘い物苦手だろ?」 「もう少しで、母さんの誕生日なんだ。母さん、ずっと働いてて、友達と遊びに行くとかないから、そういうとこ行くのどうかなと思って。高校生にもなった息子と行っても、楽しくないかもしれないけど……」 「んな事ないだろ。俺には考えられないけど、お前んとこ仲いいし。きっと、おばさん喜ぶよ」 1袋目終了 どんだけ送ってきたんだ 2袋目のイチゴを洗って入れ物に入れる 「夏~。ありがとう!すっごく、いいお店だった」 「おばさん喜んでた?」 「うん。ケーキもいっぱいあって、見てるだけでも幸せって言って、すっごく嬉しそうに食べてた!」 「そっか。良かったな」 「うん!」 まるで彼女とのデートみたいに喜んでたな 俺なんかよりは、充分返してあげてたと思うんだけど おばさんがあげたものも 雪が返したかったものも そんなんじゃ、全然足りないものだったんだろな 「よし、終わり……やっぱ、ちょっと食うか」 「今日…夏の家、寄ってってもいい?」 「いいけど?」 「やった!」 「せっかくだから、たまには晩ごはんも食ってけば?」 「その前には帰るよ」 何故だか、雨の日には、俺の家に寄りたがった ちょっと古めのアパートで、天気の悪い日に、1人で居るのが嫌だったんだろうか そのくせ、そんなに遅くまで居る訳でもなく 少しの間の時間潰しみたいに…… 「さて、風呂入って寝るか」 湯船に浸かって考える イメージトレーニングって 溺死考えてんのかな 「トレーニングの意味が分かんねぇわ」 死ぬ為に頑張って生きるって何だよ 死ぬ為に、恋愛しないで 死ぬ為に、好きな人から離れようとしてる? それが1番望む事? リビングの電気を消そうとして、雪の部屋の方を見る まあ、大丈夫だろうけど 今日は、かなり変だったからな そっとドアを開けると、すやすや眠ってる 安心する 起きてる間は、何かを我慢したり、何かを誤魔化したり…… 寝てるときは、そのままの雪だ 「…母さん……」 夢で…会えてんのか あ……笑ってる 人は忘れるから生きていけるって言うけど 忘れるって残酷だと思う 2度と会えないのなら消してくれればいいのに 少しずつ…夢でも会えなくなって 少しずつ…思い出が薄れていって そうして少しずつ忘れていってしまう自分を 雪は、許せるだろうか 思い出せなくなったものに気付く度に雪は…… そう考えただけで、胸が締め付けられる 今でも充分苦しんでるのに この先もずっと…… 雪は……自分の名前みたいに ほんとは、ちょっと触っただけで溶けて消えてしまうものを守る為に どうしたら、壊さずに居られるのか探しているのかもしれない おばさんが亡くなった時 消えてしまってもおかしくなかったものを 1人でずっと…… 「はぁ……雪」 雪の柔らかくて綺麗な髪を撫でる どうしてあげたらいいんだろう こんな辛い思いしてるのに 毎日こんなに頑張って生きてんだから いっぱいご褒美あげたいのに 「その方に、恋愛感情を抱いてるという事で、間違いないのでは?!」 間違いなかったらいいのに 俺も、雪と同じ好きだったら きっと喜んでくれるのに 死にたくないって 思わせてあげられるのに 「おやすみ…雪」
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