夏希side

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夏希side

「カツ丼久しぶり~」 「俺、あんまり揚げ物得意じゃないからなぁ」 スーパーまでの道のりを歩く 「夏は、もうちょっと肉と油、摂った方がいいと思う」 「雪は、もう少し野菜摂った方がいいと思うぞ」 ほっとくと肉しか食べないんだから 「ん~と…玉ねぎと、卵はあるから、肉と…肉って、豚肉ならなんでもいいのか?」 「普通は厚めのロー…ス……」 「ああ。ロースだったな……雪?」 何で突然止まったんだ? 何見て…… 雪の視線の先には、同じくスーパーに向かってきた2人組みの男 知り合い? 「雪、知り合い……」 あ… なんか…凄く大切な人だ だって雪、泣きそうだもん 「……雅斗(まさと)!」 そう言って、雪が走り出した 2人が、驚いて雪を見ると、 「ゆ…雪…?」 そう言った男に雪が飛び付いた 「雪!元気だったのか?」 「ふぅ~~っ…雅斗っ…ごめんなさいっ!」 「ははっ…泣き虫なのは変わってないな」 あの雪が… 会った途端に泣いてる 相当…信頼して、心許せる奴なんだ もう1人の男も、雪を知ってるのか、嬉しそうに見てる これは…ちょっと… 見てちゃダメな気がする 向きを変えて歩き出す どういう…知り合いなんだろう 高校だって3年の時しか知らない 大学の友達も、バイトの人達も知らない けど… そういうんじゃない 会った途端、飛び付いて泣くなんて 俺にだってしない あれ? ここ…公園? 雪が迷ったとこかな 「はぁ…」 ベンチに座る あいつ… 泣き虫なのは変わってないな そう言ってた そんなに…あいつの前では、よく泣いてたんだ ジャリ え? 目の前に、誰かの足 雪じゃない 見上げると 「あんた…夏?」 さっき…あいつの隣にいた奴… なんで…… ってか…オシャレなんだろうけど、派手な奴 頭…白?金? 「なあ、あんた夏なの?…雪の事怒鳴り付けて、連れてった奴だろ?」 え…? って事は、あの時雪と一緒に居た、柄悪いけど、実はけっこういい奴等の1人か 「あ…あの時は…ありがとうございました。夏希です」 なんで…俺の名前 あの時、名前なんて言ってないのに 「…よ……良かったぁ~」 そう言って、その場にしゃがみ込んだ 「え?」 「あの時、あんな事言って怒鳴るなんて、夏なんだろなと思い込んで、あんたに雪を渡したはいいけど、後からどんどん不安になってきてさ」 「…はあ」 不安? 「ちゃんと雪に、夏なのか確認しなかったし。すげぇ心配してる様にしか見えなかったけど、実は別の側面を持つDV男で…」 え? 「あいつのせいで雪、死にたいと思ってたんならどうしようとか…」 死にたい…って やっぱり… 「何より…雅斗が連れて来たのに、雅斗の居ないところで、ちゃんと確認もせずに、雪を渡してしまったから……」 雅斗って、さっきの… あいつが連れてったんだ 「せっかく雅斗が救ったのに、俺のせいで雪…死んじゃってたら…どうしようって……はぁ…良かった」 救った…って? 「すいません。あの頃の話、聞きづらくて…全然雪から聞いた事なかったので、そんなにお世話になってた人達だとは知らなくて…」 「いや。夏が謝る事はないだろ。雪の奴、雅斗にくらい、連絡しろよな。ったく」 「…俺が気になってるのに聞かなかったから…もしかして、気遣って…とかあるのかもしれません…すいません」 「だから、夏が謝る事じゃないって。んっしょ。隣、いい?」 「はい」 隣に座ると、俺の顔を覗き込み 「夏が、今でも傍に居てくれてる奴で良かった」 「…雪にとっては…ありがた迷惑なのかもしれませんけど…」 「え?」 「雪の様子がおかしかったから、雪の叔父さんと、うちの母さんと相談して…一緒に暮らしてるんです」 「…へぇ」 「俺は、単純に、雪と暮らせて嬉しいんですけど、いくら話しても、あの時巻き込まれた可哀想な奴としか、見てもらえなくて…馬鹿みたいに優しいから、同情で付き合ってるんだとしか思ってもらえなくて…」 「夏は…恋人としての意味で…好きなのに?」 えっ?! 何で… 「あ…やっぱ、そう?さっき、雪が雅斗に抱き付いた時の反応がさ。そうかなって」 なんか…そういうの… 普通に話せる人なのかな 「そう…見えたなら良かったです…」 「…どういう事?」 「雪に…男好きになった事ないだろとか…言われてると…自分でもよく分かんなくなったり…」 「あ…雪に、言ったんだ?」 「雪に言ったって言うか…雪から気持ち伝えられたんですけど…」 あれ…これ言っちゃって良かったかな 「はあ?あいつ、自分で好きだって言っといて、好きな相手にそんな事言ってるの?」 「雪は…特別な人を作りたくないから…でも、元々特別な立場に居た俺に、そんな気持ちあるって気付いて…どうにかして消したいんだと思います」 「相変わらず、めんどくせぇガキだな。じゃあ、夏に気持ち伝えるなよな」 「雪自身…自分の気持ち、どうしたらいいか分かんないんだと思います。他の色んな事も考え続けてるから…」 「…まだ…あいつ死ぬ事考えてんの?」 あの時期会ったんなら… そうだよな 「雪の中で…色々考えがあるから、そういうの片付けてからじゃないと、死なないらしいです。でも……っ湯船に沈んでる度に…凍りつく……っ雪が…何も言わずに居なくなると…っ…うっ…もしかしたらって……考える……っ……心臓にっ…悪いっ…」 「…夏…お前、それ……誰かに相談出来てんの?」 「…こんなのっ…誰にも言える訳ない……っ…ほんとにっ…困った時っ…だけ…友達っ…」 全部言ってしまえば俺だけは、楽になれる けど…誰も幸せにならない 何の解決にもならない 「夏…携帯」 「え?」 「連絡先教える。俺も雅斗も、あいつが死にたがってる事知ってる。そういうの普通に話せるから」 「っ…でも…雪はずっと1人で苦しんでるから…俺だけ、雪の知らないとこで人に話して…楽になるとか…」 「お前…どんだけいい奴なんだよ。雪と夏の関係ってのがあるだろうから、無理に相談しろとは言わない。けど…ほんとに困った時に相談する友達よりは、分かってやれるから」 「…じゃあ…お願いします」
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