夏希side

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「弓道部だったよ?」 「え?…えっ?!嘘だ!部活なんか、行ってなかったぞ?」 「2年の終わりに退部したからな」 「え?あ…そうだったんだ。受験だから?」 「いや…俺、2年の秋頃に、自転車乗ってて車と接触しちゃって…」 「……え?」 雪に、話した事なかったもんな 「幸い、右膝以外は、大きな怪我なかったんだけど…手術してリハビリして…なんとか引退前の大会間に合うかなぁ…なんて考えてたけど…全然間に合わないなと思ったから、退部したんだ」 「そう…だったんだ…あっ!」 雪が、慌てて俺の上からどける 「今は…痛くないの?」 「うん、全然」 「……傷…見てもいい?」 「傷?いいけど…あんまり分かんないよ?」 傷…見たいもんかな? 起き上がって、右膝を見えるようにする 「そんな大きな傷じゃないだろ?」 「これで済んで…良かった……触っていい?」 「いいけど…何故触りたいのか、俺には理解出来ない」 「痛かった?」 「まあね」 「これ…空閑(くが)、知ってる?」 出たよ空閑 「知らない」 「…へへっ」 膝の傷に頬っぺた寄せて、嬉そうに笑ってる 「お前の思考が、かなり危ないという事が分かったぞ」 「………」 何… 何考えてんの? 怖いんですけど 「…夏が弓道やってるとこ、見たかったなぁ」 まともな事考えてた 「…そう?」 「夏が…あの格好で弓を射ってるとこ、見てみたかった」 「多分、どっかに写真あるから、今度見せたげるよ」 「…うん。でも…生で見たかったなぁ。弓道部だった人達、羨まし」 何となく分かるけど… 俺も、あの凛とした姿に憧れて、弓道部入ったし 「いつか…機会があったら見せてやるよ」 「えっ?ほんと?」 「でも多分、すっげぇ下手くそになってるぞ?」 「いい!なんなら、実際に矢飛ばさなくてもいい!あれ着るだけでもいい!」 「それじゃ、ただのコスプレじゃん」 「…夏」 雪が、横から抱き付いてくる 「何?」 「俺…部活ってやった事ないから、よく分かんないけど…2年生で辞めたの…悔しかった?」 「…うん。すっげぇ悔しかった」 「やっぱ…そういうもんだよね」 「事故った時は、春なんて、まだまだ先で…どうにかなると思ってたんだ。春に大会があってさ。3年は、それを最後に引退するんだ…でも、春が近付いてきても全然…」 あの時は…けっこう…… 「望みないのに、縋り付いてたくなくて…辞めた。まあでも…受験に専念しようと思ってたら、雪に出逢えた」 「……え?」 雪が、俺から離れて、じっと見てくる 「あの頃は、俺がもっとガキだったからか、雪が、すげぇ大人に見えて…いや、普段はたいして変わらないんだけど…雪は覚えてるかな?3年の初めの頃の体育の授業で、走ってるうちに気持ち悪くなって、ちょっと吐いた奴が居たんだ。覚えてる?」 「全然」 だよな 「皆、びっくりして、ちょっと服とか手とかにも、吐いた物が付いちゃってて、心配だったけど…近付くの迷った。だんだん人集まってきて、先生が来て、保健室連れてくからって言った時……先生、俺連れてきますよって、走って来た雪が言ったんだ……びっくりした。先生も心配してたけど、雪は何でもない様に、そいつに肩貸して、さっさと保健室連れてった……」 「そんな事、あったっけ?」 全然…気にしてない 「俺はちょっと感動した。まあ、俺がガキだっただけなんだろうけど。自分が吐いた物も汚なくて触りたくないのに、人の吐いた物、付くかもしれないのに…雪、全然気にしないで、そいつにくっ付いてた。ああ…俺と同い年で、同じクラスに、こんな奴が居るのかって思った」 「ぶっ…そんな、大袈裟に感動する事か~?」 雪にとっては、そんなもんなんだろな 「雪を知りたくなった。そしたら、同じ志望校だって知って、雪と仲良くなる事が出来た。普通にふざけた事言って…なんだ、俺とたいして変わりないじゃん?って思ったけど…やっぱり、ふとした時に、凄く大人びてる事があって。ああ…こいつは、優しいんだなって思った。人の事をよく見て、人の気持ちがよく分かるから…そんな風に出来るんだなって思った」 「…それは…夏の、壮大な妄想だな」 雪は、頑張ってそうしてる訳じゃないから、分からないんだ 「雪の傍に居るのが、誇らしくて、嬉しくて、雪の事もっと知りたくて、気付いたら、弓道部の事なんか、全然考えてなかった」 「……え?」 「俺が高校最後の1年、腐った腑抜けの、どうしようもない奴にならずに済んだのは、雪が一緒に居てくれたからだ」 「…おっ…俺は、夏の壮大な妄想話に出てきた奴じゃないっ!」 照れて俺に背中を向けた雪を、後ろから抱き締める 「雪だよ。雪のお陰なんだ。今でも、雪に弓道の事、嫌な気持ちにならないで話せるのは、雪のお陰なんだ」 「俺は別に…何もしてないし…夏が勝手に、いい話作り上げてただけだし…」 「違うよ。雪に沢山貰ったんだ。だから、雪に沢山返したいんだ」 「………だからって……好きでもないのに、好きだと思ったり……一緒に居たくないのに、居ようとするのはなし…だから……掟…だから……」 雪の事、好きになればなる程分かる 「分かった。掟な…守る」 突然置いてきぼりにされる事が どんなに恐怖か 「雪…好きだよ」 出逢わなければ良かったって だったら最初からない方が良かったって 「好きだから…一緒に居ていいよな?」 その方がずっと楽だったって 「そ…それなら、いいけど?」 だから、要らないって思うの分かってしまう 「ちゃんと守れよな?掟」 でも…それでも 「うん」 離れた時、どんなに辛くても 「雪…好き」 その時、すぐにじゃなくても 「ほんとに…好きなんだ」 やっぱり出逢えて良かったって 「俺と出逢ってくれて、ありがとう」 そう思ってもらえる様に……
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