雪side

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夏の服の中に右手を入れて、ゆっくりと脇腹辺りを触る 不思議過ぎる 「夏って…ほんと、くすぐったがらないよね?」 「雪が異常なんだよ」 「そうかな…」 ゆっくりと両手で服を捲り上げ始めると 「…それは…安心出来る事に入ってんの?」 「入ってる」 みぞおち辺りまで上げて見る 夏って… 何にもスポーツとかしてないし 普段鍛えてる訳でもないのに なんか、鍛えてる人みたいな筋肉 夏のお腹をツンツンとつついてみる けっこう…しっかりした腹筋 「どんなに見たって、俺の腹にシックスパックは存在しないぞ?」 喋ると、腹筋に当たって硬い 「……夏って…部活とか入ってなかったよね?」 「弓道部だったよ?」 え? 「え?…えっ?!嘘だ!部活なんか、行ってなかったぞ?」 「2年の終わりに退部したからな」 1回も…部活の話聞いた事なかった 「え?あ…そうだったんだ。受験だから?」 「いや…俺、2年の秋頃に、自転車乗ってて車と接触しちゃって…」 「……え?」 接触… 交通事故… 「幸い、右膝以外は、大きな怪我なかったんだけど…手術してリハビリして…なんとか引退前の大会間に合うかなぁ…なんて考えてたけど…全然間に合わないなと思ったから、退部したんだ」 母さんと同じ… 交通事故… 「そう…だったんだ…あっ!」 足! 慌てて夏の上からどける 「今は…痛くないの?」 「うん、全然」 「……傷…見てもいい?」 「傷?いいけど…あんまり分かんないよ?」 夏が起き上がって、右膝を見せてくれる 「そんな大きな傷じゃないだろ?」 ほんとに大きな怪我じゃない 良かった… 「これで済んで…良かった……触っていい?」 この怪我で… 夏は…助かった 「いいけど…何故触りたいのか、俺には理解出来ない」 綺麗になってる 俺の知らないところで… 「痛かった?」 「まあね」 夏に出逢えなくなるとこだった これは… 夏を助けてくれた 大切な傷 「これ…空閑(くが)、知ってる?」 「知らない」 良かった だって… 夏と出逢わせてくれた大切なものだから 「…へへっ」 膝の傷に頬っぺを寄せる 嬉しい 「お前の思考が、かなり危ないという事が分かったぞ」 夏が弓道部かぁ 「…夏が弓道やってるとこ、見たかったなぁ」 「…そう?」 「夏が…あの格好で弓を射ってるとこ、見てみたかった」 「多分、どっかに写真あるから、今度見せたげるよ」 絶対綺麗だ 本物…見たかったな 「…うん。でも…生で見たかったなぁ。弓道部だった人達、羨まし」 「いつか…機会があったら見せてやるよ」 「えっ?ほんと?」 「でも多分、すっげぇ下手くそになってるぞ?」 「いい!なんなら、実際に矢飛ばさなくてもいい!あれ着るだけでもいい!」 「それじゃ、ただのコスプレじゃん」 絶対お金と時間がかかる部活に 俺は入った事がないから よく分かんないけど 「…夏」 夏に乗っからない様に、ソファーの横から抱き付く 「何?」 「俺…部活ってやった事ないから、よく分かんないけど…2年生で辞めたの…悔しかった?」 「…うん。すっげぇ悔しかった」 すっげぇ… そうだったんだ 「やっぱ…そういうもんだよね」 「事故った時は、春なんて、まだまだ先で…どうにかなると思ってたんだ。春に大会があってさ。3年は、それを最後に引退するんだ…でも、春が近付いてきても全然…」 春に大会あったんだ 「望みないのに、縋り付いてたくなくて…辞めた。まあでも…受験に専念しようと思ってたら、雪に出逢えた」 「……え?」 何で…突然俺 夏から離れて、じっと見る 「あの頃は、俺がもっとガキだったからか、雪が、すげぇ大人に見えて…いや、普段はたいして変わらないんだけど…雪は覚えてるかな?3年の初めの頃の体育の授業で、走ってるうちに気持ち悪くなって、ちょっと吐いた奴が居たんだ。覚えてる?」 「全然」 3年の初め? そんなの、まだ夏とも仲良くなってない 記憶ない 夏が一生懸命、その時の事を話してくれるけど、まるで覚えてない 高3の記憶なんて、ほぼ受験と夏との記憶しかない 「そんな事、あったっけ?」 「俺はちょっと感動した。まあ、俺がガキだっただけなんだろうけど。自分が吐いた物も汚なくて触りたくないのに、人の吐いた物、付くかもしれないのに…雪、全然気にしないで、そいつにくっ付いてた。ああ…俺と同い年で、同じクラスに、こんな奴が居るのかって思った」 感動……の閾値が低く過ぎる 「ぶっ…そんな、大袈裟に感動する事か~?」 たった、そんな事で感動する 夏は、自分がどんなに綺麗なのか気付かない 「…………ああ…こいつは、優しいんだなって思った。人の事をよく見て、人の気持ちがよく分かるから…そんな風に出来るんだなって思った」 誰だよ?そいつ 「…それは…夏の、壮大な妄想だな」 「雪の傍に居るのが、誇らしくて、嬉しくて、雪の事もっと知りたくて、気付いたら、弓道部の事なんか、全然考えてなかった」 「……え?」 これは…ちょっと… 不意打ち…… 「俺が高校最後の1年、腐った腑抜けの、どうしようもない奴にならずに済んだのは、雪が一緒に居てくれたからだ」 そう…思うだけ落ち込んでたんだ 全然…気付かなかった 俺…何もしてないし 夏が勝手にヒーロー作り上げただけで… 「…おっ…俺は、夏の壮大な妄想話に出てきた奴じゃないっ!」 俺…そんなんじゃないし 恥ずかしくなって、夏に背中を向けると 後ろから夏が抱き締めてきた 「雪だよ。雪のお陰なんだ。今でも、雪に弓道の事、嫌な気持ちにならないで話せるのは、雪のお陰なんだ」 それは 何でもない俺を見て そう思えた夏のお陰なのに 「俺は別に…何もしてないし…夏が勝手に、いい話作り上げてただけだし…」 「違うよ。雪に沢山貰ったんだ。だから、雪に沢山返したいんだ」 返す… そんなんで… 好き…とか 付き合ってる…とか…… 「………だからって……好きでもないのに、好きだと思ったり……一緒に居たくないのに、居ようとするのはなし…だから……掟…だから……」 「分かった。掟な…守る」 それでも…夏は 「雪…好きだよ」 好きでいて…くれるだろうか 「好きだから…一緒に居ていいよな?」 一緒に居て…くれるだろうか 「そ…それなら、いいけど?」 離れたくない 「ちゃんと守れよな?掟」 けど…お返しで好きでいて欲しくない 「うん」 夏は…いつまで気付かずにいれるかな 「雪…好き」 好きな女ができるまで? 「ほんとに…好きなんだ」 大学卒業するまで? 「俺と出逢ってくれて、ありがとう」 俺を好きなのは勘違いだって
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