悠side

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スーパーへ入ろうとしたところで、見覚えのある顔を見付けた 1個下とは思えない幼い顔をしてるくせに、口を開けばムカつく事ばかり言ってたそいつは 俺が願ってた理想の形で現れてくれた 死んで…なかった あいつと…一緒に居たんだ 良かった… やっぱ…きっと、夏なんだ 雪の奴、雅斗にくっ付くなって言ってんのに、飛び付きやがって ん? ……あれ? あの表情って…… あ…雪残して、歩き出したぞ? これは… 雅斗を見ると、頷いてくれた 夏の後を付いて行く ある日… 雅斗が、ずぶ濡れの雪を連れて帰って来た 文句言って、追い出してやれなかった ずぶ濡れの雪は…ある日の雅斗と よく似ていた 何も喋らない 何も食べない 風呂入らない 着替えしない 熱がありそうで、せっかく用意してやった薬は飲まない 仕方なく そのままでも眠れるように タオルと毛布を置いて 雅斗のベッドで寝てもいいぞと言って 雅斗と2人、俺のベッドで寝る事にした 雅斗は気になって全然眠れないし こっそりドアを開けて2人で見ていると 全然動かなかった雪が薬の瓶を開けた 辛くなってきたのか? 俺達の前では飲めなかったのか そう思ってると テーブルの上に、ジャラジャラと薬を出し始めた 何やってんだ?あいつ それをかき集めて、両手に持てるだけ持つと 「……え?」 全部…口の中に入れた 俺よりフワフワしてる雅斗が すぐに飛び出してったのは… 俺よりそういう予測…出来てたからなのか 水を飲もうとしてた雪の体を支えながら、雅斗が口の中の薬を掻き出す 俺も走り寄って手伝う 雪は、抵抗するでもなく どこを見てるでもない目をして やっぱり何も言わなくて ただ…涙だけが流れてた 雅斗が、誰かを抱き締めるのなんて 嫌でしょうがないはずなのに あの頃の自分を抱き締めてるみたいで 何も言えなかった 雅斗はきっと…自分と重なって ほっとけなくて連れて来たんだ 結局、雅斗は雪と一緒に寝て 次の日、大学もバイトも休んでずっと居て 雪は、やっぱり何も食べない喋らないで 昼からは、雅斗が勝手に話をしながら、ずっと雪の手を握って隣に居たみたいで そしたらようやく、暗くなってきた頃 「雪」と一言言ったらしい 家に来て初めて、雅斗と晩飯を食べて 一緒に寝たそうだ 俺がその日の夜遅く帰り、アパートに入ろうとすると 3階の俺達のが住んでるとこのベランダが、カラカラと開きだした 雅斗、起きてたのか? ちょっと外に戻って、手を振ってやるかと思ったら… 出てきたのは雪だった 眠れないのか? 雅斗じゃないなら入ろうとすると ベランダの手すりに座り始めた 危ない奴だなぁ そう思ってると そのまま手すりの上に立とうとしだした な…何考えてんだ?あいつ! フラフラと立ち上がろうとした時 後ろから雅斗に引っ張られた 急いで帰ると ベランダで、雅斗が雪を抱き締めてて 2人して泣いてた ムカついた! 雅斗を泣かせた 雅斗に…あの頃の事思い出させた 俺は雪を怒鳴ってやった 「薬飲もうと、飛び降りおうと、死ぬのはお前の勝手だ!けどな!お前が死んだ後、殺人の容疑で疑われるのは俺達だ!お前の死体回収して調べる奴だって居るんだよ!人に迷惑かけんな!」 そう言った俺を見た雪と 初めてちゃんと目が合った そして、その後しこたま雅斗に怒られた 雪は変わったろうか 夏に渡す頃には、喋って、飯食って、笑う様になってたけど 殺人や自殺のニュースが流れるとガン見して 何もしてないと ひたすらぼーっとして何かを考えてた 俺と寝ても、雅斗と寝ても、友達何人かと寝ても 全然眠れてなかった 夏と居て、少しは落ち着いたのか? あんなに怒鳴る程、思い入れのある奴が しかも、雪に対して 多分そういう意味の気持ち抱いてる奴が 雪の隣に居て上手くやれてるんだろうか? 公園に入ってくと、ベンチに座った 話し掛けてみても…いいかな ジャリ 目の前に立つと、こっちを見上げた 「あんた…夏?」 「………」 え? 夏じゃない? 「なあ、あんた夏なの?…雪の事怒鳴り付けて、連れてった奴だろ?」 「あ…あの時は…ありがとうございました。夏希です」 あの時を知ってる… 夏希…って事は…… 夏! 「…よ……良かったぁ~」 思わずその場にしゃがみ込む 「え?」 「あの時、あんな事言って怒鳴るなんて、夏なんだろなと思い込んで、あんたに雪を渡したはいいけど、後からどんどん不安になってきてさ」 「…はあ」 不思議そうな顔をして俺の話を聞いている あ… 死にたいって言葉に 反応した? 「すいません。あの頃の話、聞きづらくて…全然雪から聞いた事なかったので、そんなにお世話になってた人達だとは知らなくて…」 雪…話してないんだ 「いや。夏が謝る事はないだろ。雪の奴、雅斗にくらい、連絡しろよな。ったく」 「…俺が気になってるのに聞かなかったから…もしかして、気遣って…とかあるのかもしれません…すいません」 それなのに反応するって事は… 「だから、夏が謝る事じゃないって。んっしょ。隣、いい?」 「はい」 なかなかに 大変なんじゃないか?夏 隣に座って、夏の顔を覗き込む 「夏が、今でも傍に居てくれてる奴で良かった」 「…雪にとっては…ありがた迷惑なのかもしれませんけど…」 「え?」 「雪の様子がおかしかったから、雪の叔父さんと、うちの母さんと相談して…一緒に暮らしてるんです」 一緒に… まあ、分かるけど 「…へぇ」 「俺は、単純に、雪と暮らせて嬉しいんですけど、いくら話しても、あの時巻き込まれた可哀想な奴としか、見てもらえなくて…馬鹿みたいに優しいから、同情で付き合ってるんだとしか思ってもらえなくて…」 「夏は…恋人としての意味で…好きなのに?」 びっくりして固まってる 「あ…やっぱ、そう?さっき、雪が雅斗に抱き付いた時の反応がさ。そうかなって」 「そう…見えたなら良かったです…」 見えたなら…良かった? 「…どういう事?」 「雪に…男好きになった事ないだろとか…言われてると…自分でもよく分かんなくなったり…」 雪に… 「あ…雪に、言ったんだ?」 それで一緒に居るの辛くないか? 「雪に言ったって言うか…雪から気持ち伝えられたんですけど…」 ん? 雪から………は? 「はあ?あいつ、自分で好きだって言っといて、好きな相手にそんな事言ってるの?」 「雪は…特別な人を作りたくないから…でも、元々特別な立場に居た俺に、そんな気持ちあるって気付いて…どうにかして消したいんだと思います」 う~わ めんどくささが成長してる 「相変わらず、めんどくせぇガキだな。じゃあ、夏に気持ち伝えるなよな」 「雪自身…自分の気持ち、どうしたらいいか分かんないんだと思います。他の色んな事も考え続けてるから…」 ああ… やっぱ考え続けてんのね 「…まだ…あいつ死ぬ事考えてんの?」 それも知ってるんじゃ 辛過ぎだろ 「雪の中で…色々考えがあるから、そういうの片付けてからじゃないと、死なないらしいです。でも……っ湯船に沈んでる度に…凍りつく……」 は? そんな事…普通に夏に話してんの? 何やってんだよ?あいつ 「っ雪が…何も言わずに居なくなると…っ…うっ…もしかしたらって……考える……っ……心臓にっ…悪いっ…」 「…夏…お前、それ……誰かに相談出来てんの?」 「…こんなのっ…誰にも言える訳ない……っ…ほんとにっ…困った時っ…だけ…友達っ…」 バカ雪 くそ雪 好きな男泣かせて楽しいか?!
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