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「夏…携帯」
「え?」
「連絡先教える。俺も雅斗も、あいつが死にたがってる事知ってる。そういうの普通に話せるから」
「っ…でも…雪はずっと1人で苦しんでるから…俺だけ、雪の知らないとこで人に話して…楽になるとか…」
うわっ
こいつ…いい奴過ぎる
「お前…どんだけいい奴なんだよ。雪と夏の関係ってのがあるだろうから、無理に相談しろとは言わない。けど…ほんとに困った時に相談する友達よりは、分かってやれるから」
少し考えた後
「…じゃあ…お願いします」
そう言って携帯を出した
こんな考えの奴が雪相手で大丈夫か?
不安しかない
「……悠でいいよ。夏は、雪と同い年?」
「はい。高3の時、クラス一緒で…志望校同じで、ずっと一緒に勉強して…」
今の雪とは違ったんだろうな
俺は、雅斗に会う前を知らないけど
夏は、どっちも知ってるんだ
それは…キツイだろな
「…雨の中…横断歩道の真ん中に突っ立ったまま動かなかった雪を、雅斗が連れて来たんだ。1週間位俺達と一緒に暮らしてた。最初の頃、何度か死のうとしてた」
「っ…そう…ですか」
雪から聞いてないなら
俺達と居た間の事…知らないままなんだ
「けど…他は、夏が心配する様な事…何もなかったから。ずっと俺か雅斗が一緒に居たし…俺と雅斗は恋人同士なんだ」
だから安心しろ
「…え?」
「だから…そういう意味でも、夏が心配する様な事は、何もなかった。一応、報告」
俺を見てた夏が俯く
「~~っ良かっ…」
だよな
ずっと…不安だったよな
「…っありがっ…ござっ…うっ…」
雪が話さないんじゃ
聞けないよな
「…ありがとっ…ございっ…」
雪に聞けないんじゃ…
誰にも聞けないよな
「夏……お前…よく1人で……おいで」
雅斗、ごめん
これは、そういう意味じゃないから
分かってくれるよな?
夏を抱き寄せてくれる
「いいか?俺は、こう見えて一途だからな。雅斗以外に胸貸してやるなんて、すげぇレアだからな?」
「……っくっ……ありがっ…ござっ…ます」
「…そうだな…お前達ちょっと…特別な存在になり過ぎて…自信なくすのも、分からなくもないな」
ちょっと…俺達に似てるから
雅斗を見付けた時も………
雅斗も思ってる
可哀想な奴を見捨てられない優しい奴が
自分の為に傍に居てくれているって
「…ふっ…う~っ…」
「よしよし。夏は、よく頑張ってる。あんな面倒な奴、さっさと手放しちゃえればいいのにな?死にたいのに、気持ち伝えるとか、なんだよ?ふざけてんな?」
「…うっ…うっ……」
夏がコクコクと頷く
おっ…同意した
……そうだよな
こいつらは1年普通の友達だったんだ
その友達が失踪して
戻って来たら死にたがってて
「なのに、受け入れてくれた夏の気持ち、試す様な事言って?腹立つな?あいつ」
複雑過ぎる
「…悠…聞きたいっ…事っ…ある」
「何だ?」
「……男がっ…男のっ…経験っ…ない奴とっ……」
今…それ聞く~?
夏の思考回路どうなってんの?
まあ…直接聞けるチャンスかもしんないけど
「…ああ。まだなのか。検索すると、今なら普通に調べられると思うけど、今度ゆっくり教えようか?」
「~~っ!違っ…くっ…って!」
え?
怒ってる?
何?
「…え?違うの?」
「…っく……無理矢理っ!…ヤろうとっ…したらっ……~~っ…どんな事っ…するの?」
…は?
無理矢理…ヤろうと……
夏が?
な、訳ない
「………え?何で…そんな……え?」
「…っく…はぁ…っ………悠…っ俺のっ…せいで…」
え?
誰に…無理矢理…
「…うん?」
「…俺がっ……ちゃんとっ…見てなかった…っからっ…」
しかも…
聞いてくるって事は
夏とはまだそういう事…
「…夏?」
「…たった…うっ…たった何分かっ……雪っ…うぅっ…居なくっ…なってっ…」
つまり…
そういう事か
「っ…分かった。夏…もう分かった」
夏を抱き締める
そんなの…
雅斗だったら堪えられない
「…ふっ…うっ…ごめんっ……俺がっ…早くっ…」
夏が謝る事じゃない
でもきっと夏…謝りたいんだ
「~~っ…うん」
雪と…話せてないのか?
話し…出せないよな?
夏の性格じゃ
雪から言わない限り
そして雪は絶対言わなそう
「…俺がっ…逆からっ…探しっ…ちゃった…から…」
どんなっ…気持ちで……探したんだ
気が…狂いそうだ
「っ…うん」
ずっと…こうして謝りたかったんだ
ずっと…1人でこれを抑えてたんだ
「ごめっ…1人にして……ごめっ…~っ…早く…見付けられなくて…ごめっ…」
「うん…分かった…」
「ごめんなさっ…」
「うん…分かった。分かったよ」
ちゃんと謝れてるよ
大丈夫
夏を安心出来る様に撫でてやる
「~っ…雪っ…何も…言わないっ……でもっ…両手…手首にっ……指の跡っ」
手首に…指の…
そんなの…見付けたら
「…っ…そっか」
聞きたかったろうに…
「腰っ…背中……縦にっ…~っ擦られた傷跡っ…あってっ…」
どうやって…気付いたのかな
雪が無神経に見せたのか
「うん…うん…」
こっそり自分で…確認…したのか
「雪っ…何っ…されたの?…っく…悠っ…顔っ殴られてっ…ナイフでっ…左頬っ切られてっ…」
それって…もう事件じゃねぇか
「…夏…」
自分の…大切なもの
そんなにされて…
「Tシャツっ…ビリビリにっ…切り裂かれてっ!」
雪にも
「っ…うん…」
誰にも…言えないで
「ごみっ…捨て場っ…倒れてっ…~~っ!雪っ…死んでるっ……思っ…ふっ…うぅ~~」
こんなに雪の死に怯えてる奴に
何てもの見せてくれてんだよ
「夏…お前…よく…1人で頑張ったな。よく…頑張った」
「うっ…悠っ…雪っ…怖かったっ…よね?痛かったっ…よね?雪っ…酔ってて…抵抗っ…出来なっ…悔しかった…ね?」
多分…
雪に謝れる日が来たとして
そいつらが謝罪する日が来たとして
それでも
夏は一生後悔するんだと思う
多分…
雪が忘れても
夏は一生忘れられない
「…そうかもしんないけど…夏。お前も大事。お前…そんなの1人で抱えてたら…壊れちゃうぞ?雪は…そりゃ、痛いし、屈辱的だったとは思うけど…夏が思うよりは、怖がってなさそうな気がする」
「雪っ…全然っ…俺よりっ…冷静で……」
まあ…ショックはショックだろうけど…
「…そんな気がする」
多分、普通の奴がそんな事される程のショックは、受けてなさそう
それより…多分夏の方が……
体を離して夏を見る
「それが雅斗だったらって考えたら、気にするなって言われたって、そんなの無理だし、そいつら見付けて、もっと酷い目に合わせてやりたいって思う」
「うっ…うぅっ…!」
「でも…誰かが言わなきゃ、進めないから言ってやる。そんな事、さっさと頭の奥に追いやれ」
頭から消すのは無理だろうから
「…っ忘れっ…られないっ…」
「分かってる。だから…他の事で埋め尽くせ。夏にとっても、雪にとっても…そんなの思い出すスペースない位…もっと楽しい事とか、大切な思い出作って…そんなの思い出せなくなる位……そしたら…お前らの勝ちだろ?」
「うっ…っく…出来るっ…かなっ…」
「出来る。夏…すげぇ強くて優しいもん。雪なんか、ベタ惚れだ」
「っく…ベタ…惚れ」
夏の発言からして、雪だって初めてだったんだ
最後までなんて出来る訳ない
出来てたら、話さない訳にはいかない事になってるだろ
あと…何をされたか……
俺が可能性で言ったって
真実は分からないし
夏が更に傷付くだけだ
きっと…雪とそういう事する時に…
する度に…
頭をよぎっちゃうんだろうけど…
それは…
言うにしても言わないにしても
どこまで言うのかも
雪が決める事だから
多分…
他の誰が何を言ったって
何の解決にもならない
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