日常の中に

「昨日、東京都大田区で…。」

つけていたテレビから聞こえてきた。

内容は不幸なもの。

本人の意にそぐわず、命が失われたニュースだった。

画面の向こうの女性は、それを淡々と読み上げていた。

画面から目を外し、テーブルの上のコーヒーを一口飲んだ。

「今日も冷えるね。」
コーヒーを片手に、妻が言った。

たしかに、先ほどまでは無かった、上着を羽織っている。

「そうだね。」
そう言い返すと、妻は目の前の椅子を引き、座った。

なんでもない瞬間だったが、
その仕草を、行動を、じっと見てしまった。

私から見て、椅子の右側に立ち、左手をテーブルの端に、軽くおいた。

右手は、椅子の背もたれをそっと掴んだかと思うと、下の階への配慮だろうか、ゆっくりと引いた。

少し気恥ずかしくなって、妻が腰を下ろしきる前に、テレビへと目を移した。