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 伯爵家の跡取り娘であるキャロラインと子爵家三男のアンドレアスは、幼い頃からの婚約者だ。高位貴族でありながら非常に気さくな伯爵夫人と、女性ながら武勇に優れた子爵夫人は大層仲が良い。そのため家族ぐるみで交流を重ねてきている。  それにもかかわらずふたりが不仲であるという噂が流れているのは、キャロラインがアンドレアスの参加する剣術の試合をまったく応援しないためである。  伯爵家に婿入り予定のアンドレアスだが、彼には剣術の才があった。そのため彼は近衛騎士を目指し、昼夜鍛錬に勤しんでいる。王立学園内でも模擬試合の機会はそこそこ多い。学内での練習試合もあれば、本格的な戦いを学ぶために実戦経験のある騎士団を招いて稽古を行い、その仕上げとして試合を行うことだってある。  互いの学ぶ分野が違えども、だからこそ敬意を払うべき。そんな学園長の信念のもと、基本的に練習試合は、他の生徒にも公開される。どちらが勝つかを巡って賭けなどが行われるのもまたご愛敬というもの。ところがキャロラインは、最初こそアンドレアスの試合に欠かさず顔を出していたものの、いつの間にかまったく足を運ばなくなっていた。  子爵家の三男とはいえ、女生徒内でのアンドレアスの人気は非常に高い。キャロラインは、周囲からたびたびちくちくとした嫌味を言われるようになったが、行動を改めることはなかった。そして彼女は、今回行われる王族を招いての御前試合であってもいつもと同じように応援に行かないことを公言したのである。
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