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 試合を順調に勝ち進んだアンドレアスがキャロラインの元を訪れたのは、その日の午後のこと。アンドレアスが連れてきたわけではないのだろうが、先ほどキャロラインを責め立てた女生徒たちもまた再び姿を現した。 「キャロライン、ご機嫌いかがかな?」 「あら、アンドレアスさま。素晴らしい勝利の数々、本当におめでとうございます」 「ありがとう。その話なのだけれど、よければ今から一緒にお茶をさせてもらってもいいかな。今、キャロラインが飲んでいるお茶もいいけれど、ケーキとそれに合う紅茶も一緒に用意してもらおうか」 「申し訳ありませんが、アンドレアスさま。今は甘いものを食べる気分ではありませんの」  キャロラインのすげない返事に、アンドレアスが困ったように微笑んだ。そのまま、キャロラインの許可を取らずに着席すると、キャロラインが飲んでいたものと同じお茶を給仕に注文する。 「アンドレアスさま。私が飲んでいるお茶は私専用の特製のもの。特別に出していただいておりますが、カフェのメニューにはございません」 「そう? それなら僕はキャロラインの飲みかけでも構わないんだけれどな。一口もらってもいい?」 「まあ、ご冗談を」  カップに伸ばされた手を邪険にならないように押しとどめ、キャロラインはアンドレアスの申し出を拒んだ。そのやり取りに、周りの少女たちが非難の声を上げる。 「まあ、キャロラインさまったらアンドレアスさまに対していささか意地悪ではなくって」 「本当に。せっかく忙しい時間をぬって会いに来てくださったというのに、あのつれなさはあんまりですわ」 「そもそも応援にも行かずになんという言い草」  それを一蹴したのは、アンドレアス自身だ。 「僕は、君たちと一緒にお茶を楽しむ気はないのだけれど。君たちが、たまたま、偶然、カフェテリアを使う分には、僕は何も言わないよ。だが僕とキャロラインの会話を邪魔するのなら、それなりの対応をさせてもらう」 「アンドレアスさま?」 「名前を呼ぶこともやめてほしい。必要があれば、家名で呼んでくれないか。それで誰かはわかるし、十分事足りるだろう? 僕は心が狭いから、キャロラインを貶めるような発言をする君たちを許せない。決闘を申し込んでもいいんだよ。もちろん女性である君たちは、代理人を立てる権利もあるからね」 「そんな、わたくしたちは」 「どうする? 今ここでキャロラインに謝罪した上で立ち去るか、あるいは代理人を立てて決闘するか。ああ、別に君たち自身が剣を取ってくれても僕は一向にかまわないけれどね」  日頃は陽だまりのように優しい顔をしたアンドレアスが、見たこともない冷たい表情と声音をしている。そのことに女生徒たちは腰を抜かしそうになった。今まで近くをうろついても拒まれなかったのは、どんな振る舞いであろうとも気にするほどの価値もないから見逃されていただけだということに気がついたらしい。  アンドレアスにとって羽虫は邪魔だけれど、いちいち殺すほどではない。けれど不快なだけの害虫が、大切なひとを傷つける毒虫だったというのであれば徹底的に排除する。その意思を前面に出されては、令嬢たちはほうほうの体で逃げ出すよりほかなかった。
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