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(3)
「あった、祠みっけ!」
ひとりで村はずれまでやってきたシンディは、国を守る結界の要となっている祠を見つけた。場所によっては修繕が必要なことも多々あるが、今回は村でしっかり管理してもらえていたようだ。古びてはいるものの、祠も清められていてその中に収められている魔石もしっかりと役目を果たしている。
(それなら今回は、魔石に魔力を注ぐだけで大丈夫そうね)
シンディは祠に手をかざすと、心を込めて歌い始めた。捧げる祝詞はたくさんの種類があるが、祠に向き合えば魔石が求めている祝詞がどれなのかすぐにわかるのだ。それはシンディの特技であり、密かな自慢でもあった。
国を守り、人々を見守ってくれていることへの感謝を込めた歌声が伸びていく。もともと平民で下町育ちということもあり、はすっぱな物言いのシンディだが歌を捧げている間だけは姫君もかくやと言わんばかりの神々しさを身にまとう。現実とは異なる神代の世界に繋がることができるのだろう。
白く濁っていた祠の魔石が、水晶のように澄み渡り輝き始めた。込められた魔力は、結界として再び辺境に張られることになる。祠の魔石はその美しさゆえに盗賊に狙われそうなものだが、悪しき心を持っている者は近づくことすらできないのだとか。まったくうまく作ったものだ。
(売り飛ばしたら、ぶっちゃけいくらくらいになるのかしら)
少しばかり下世話なことを考えてしまうのはご愛敬。シンディは十分に魔力を注がれた魔石を見ながら、深々と頭を下げた。歌い終わると同時に、周囲の木々の蕾が一斉に花開く。巡礼に携わる者だけに許された幻想的な光景だ。
(本当にいつ見ても綺麗ね)
「本当にいつ見ても綺麗ね」
(へ?)
思わず自分の心の声が外に出てしまっていたのかと戸惑うくらいの同じタイミングで、誰かの声が聞こえた。そこにいたのは、神官のレイノルドだ。どうやら喧嘩別れしたシンディをこっそり追いかけてきていたらしい。
(跡をつけられていたとか、全然気が付かなかったんだけど。なんか絶妙に腹が立つわ。でもこの綺麗な風景を好きなひとと一緒に見れるのは、やっぱり嬉しいし……。ああ、なんかもやもやする!)
とりあえず、さっさと王都に帰れと何度も説教してくることについては、一旦忘れてあげることにした。
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