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「愁くんの、お願い?」 「そうです」 「……内容に、よるよ……」 「別に難しい事を要求するつもりはありませんよ?」  そうは言うけど、ニコニコと笑みを浮かべる小鳥遊くんを前に、何だか嫌な予感が浮んでくる。  けれど、彼のお願いを聞かないと離れるつもりは無いらしく、いつまでもこんなところに居るのも困ると思った私は悩んだ末に、 「……分かった、その、付き合ってとか、そういうのじゃ無ければ……愁くんの言う事、一つだけきくよ」  彼のお願いとやらを聞く約束をした。  すると、 「それじゃあ――今ここで、先輩からキスをしてください」 「え!?」  何となく予想はついていたけれど、やっぱり小鳥遊くんはとんでもない事を口にした。 「私から、キス……」 「そうです。いいでしょ? キスくらい」 「で、でも……」 「今更じゃないですか。ほら、早くしないと人が来ちゃうかもしれませんよ?」  一度こちらからすればこの場は離れてくれるのだから、ほんの一瞬、触れるだけのキスをすればいいのだけど、こんな場所で素面の状態で私からなんて……やっぱりちょっと恥ずかしい。  小鳥遊くんは変わらずニコニコと笑みを浮かべながら、私がキスをするのを待っている。 (この様子じゃ、するまで離す気は、無いんだよね……)  とにかく今はこの恥ずかしい状況から逃れたい。  その一心で覚悟を決めた私は小鳥遊くんの顔に自身の顔を近付けていきながら『目、瞑ってて』とお願いして彼が目を閉じた瞬間、自ら唇を重ねてキスをした。  触れるだけのキスにしようとすぐに離れるつもりだったのだけど、そんな事、彼にはお見通しだったようで、私の後頭部に手を添えると、そのまま固定してきて唇を離す事が出来なくなってしまう。 「――んんっ、」  そして、再び始まってしまった深い口づけ。  結局どんどん小鳥遊くんのペースに持って行かれてしまう。  恥ずかしいし、早く離れなければいけないのに、だんだん私の思考は麻痺してきているのか、酔ってもいないのに彼とのキスを心地良いと思ってしまう自分が居た。
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