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「こ、ここで大丈夫だから、離して?」  自宅を知られたらアポ無しで来られそうだし、何よりこのまま家の前まで来られたら、次は絶対部屋に上がるって言い出しそう。  それは何としても阻止したくて頑なに断り続けていたのだけど……ふと、窓の外に視線を向けた私は言葉を失った。  止んだはずの雨が再び降り出して来たのだ。  しかも、土砂降りの雨が。 「あー、また降ってきちゃいましたね。これじゃあ歩いて帰るのは大変でしょう? ね? だから自宅の場所、教えてください」  まるでこれを待っていたかのように嬉しそうな表情を浮かべた小鳥遊くんは自宅の場所を教えるように言ってくる。 「いや、でも、ここから近いし、本当に大丈夫だから――」  それでも私が拒否し続けていると、このやり取りにうんざりしたのか小鳥遊くんは私の腕を引いて自分の方へ向かせ、 「先輩って、強情な人ですね。素直に送られればいいのに変に警戒してる。俺はただ、心配なだけですよ? もう暗いし、こんな人気の少ない住宅街に好きな人を一人で歩かせるなんてしたくない……ただ、それだけだったのに……先輩はそれすらも迷惑だって思うんですか?」  悲しげな顔で訴えかけて来た。  そこまで言われてしまうと、何も言えなくなる。 (私が考え過ぎなだけなの? 本当に、下心は無いの?)  窓を打ち付ける程の酷い雨。  いくら近くとは言え、こんな中歩いて行くのはやっぱり気が滅入る。  ここまで送って貰ったのならもういっその事自宅前まで行ってもらおう。  そう思い直した私は、 「……それじゃあ、自宅前まで、お願いします」  結局送ってもらう事に決めて道案内を開始した。  ただ、徒歩なら一、ニ分の距離なのだけどそこは車が入れない細い道なので、少し遠回りをしてもらいながら五分程で私の住むアパート前へ辿り着いた。 「ここが先輩の住んでるところですか」 「う、うん……」 「……確かにコンビニからは近いようですけど、治安があまり良くなさそうですね」 「そ、そんな事は無いよ。これまでだって、別に何かあった訳じゃ無いし……」  そう言いかけた私がふと二階の角部屋にある自分の部屋の玄関前に視線を移すと人影のようなものが見え、それに驚いた私は言葉を止める。 「先輩?」  そんな私を不審に思った小鳥遊くんが声を掛けてきたので私は、 「わ、私の部屋の前……誰か、居るみたい……」  ハッキリとは分からないけれど、誰か居るかもしれない事を告げた。
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