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 相手の男の人は結構酔っているように見える。 「ああ? 何だよ、お前」 「いえ、それはこちらの台詞なんですけど。あなたこそ、一体なんなんですか?」  刺激しないよう、小鳥遊くんは酔っ払いの男の人を相手にする。 「俺はこの家の奴に用事があんだよ!」 「ですから、ここは俺の家なんですけど、もしかして、部屋を間違えているとかないですか?」 「ああ? んなわけねぇだろ! 203号室じゃねぇか!」  確かに、男の人の言う通り、私の部屋は203号室で間違い無いのだけど――と、そこで私はある事に気付き、小鳥遊くんに耳打ちをする。 「小鳥遊くん、もしかしたらこの人、このアパートの奥のA棟と間違ってるのかも……」 「え?」 「ここはB棟なの。もしかしたら、この人はA棟の203号室の住人を訪ねて来たのかもしれない」  そんな私の言葉を聞いた小鳥遊くんは再び相手に向き直ると、 「あの、失礼ですがあなた、棟を間違えていませんか? ここはB棟ですけど」  私が立てた仮説をそのまま口にして問い掛けた。  すると、 「は? ここ、Aの203号室じゃねぇの?」  相手の人は酷く驚いた様子で問い返して来た。 「ええ、ここはBの203号室です。A棟はこの奥の建物ですよ」 「ま、マジかよ。わりぃ、間違えちまった! すんません!」  やっぱり私の思った通り、訪ねて来た人は棟を間違えていたようで、何度も頭を下げながら急いで階段を降りて行った。 「全く、人騒がせな人だな」 「あはは、本当に。でも良かった、間違えてただけで」  来訪者はただの勘違いをしていただけだった事を知って安堵した私に小鳥遊くんは、 「全然良くないです。相手は酔っ払いでしたし、もし先輩一人で帰宅していたら、どうなっていたか分かりませんよ? 今回は間違いで済みましたけど、間違いを装って訪問して来る輩だっているかもしれない。もっと危機感を持たないと」  少しムッとした表情を浮かべながらそう言い放った。  正直、そんなの元カレにも言われた事無かったから驚いた。  だけど、それだけ心配してくれてるって事なのだろう。  そう思ったらちょっとだけ、嬉しくなった。
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