あな痔になった婚約者が婚約破棄したいと言ってきたんだが。

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――――それは突然のことだった。 「婚約を……破棄したい……?」 「そうだ……す、済まない」 その日、結婚間際だったと言うのに、第2王子殿下のナル・アガイタムからそう告げられたのだ。 「ま、まさか……っ」 俺は……転生者である。そして更に俺は公爵令息スオ・ナシーリであった。 「俺の他に、好きな尻軽令息でもできたということか」 「尻っ」 お前、どこに反応したの?おちり?尻軽の尻に反応したの? 「……はぁ……そうなんだな。分かった」 「いや、そうではなく」 「じゃぁ令嬢か?」 「いや、そうではなく」 「んもぅいいや。どちらにせよ、婚約破棄するなら、お前から陛下に言ってくれ。お前が俺ん家に婿入りして、次期公爵になるのもなし。最悪身分を追われる形に……うちのぱぱんならそうするから、覚悟しとけよ。んじゃ」 なんせうちのぱぱん、王弟で宰相だぜ?絶対容赦しねぇから。ただでさえ箱入り息子の俺を溺愛してきたんだ。 「ま、待ってくれ!」 「待たない。おら、とっとと陛下に……」 「父上には……い、言えないいぃぃっ」 泣くなよ。しかも……顔が赤いような……。緊張ゆえか……? 「言える、訳がない……っ」 何だよ、普段はスパダリムーヴかましてるくせに、そんなヨワヨワになっちまって。 「じゃぁ、仕方がないから聞いてやる。相手はどこの家だよ」 「え……?家は……な、ナシーリ……」 「は?うち……?俺は一人っ子だし……分家の子にでも手を出したのか?誰だよ、お前の思いびと」 「わ、私の思いびとは……ずっと……スオだけだ」 「あ゛……?他に好きな子ができたんじゃないの?」 「そんなわけあるか!私はずっと、スオが好きなんだ……っ!」 「じゃぁ何で婚約破棄だなんて言い出したんだよ」 「だって……私は……スオの夫に相応しく……ない」 「何で……?」 「その……えと……」 「ハッキリ言えよ。それとも今からうちのぱぱんのところ連れてくか?」 「そ……それだけは……っ!私は……叔父上に殺されてしまう……!」 自分の立場をよく分かっているようで何よりだが。 「なら、話せよ。聞いてやるから」 「聞いても……私を軽蔑しないか?」 「しねぇよ、聞いてやるっつってんのに。たとえお前がイボ痔になったとしても切れ痔になったとしても、俺が薬調合してやるから」 これでも俺は、治癒魔法使い兼、薬師である。痔の特効薬くらいはサッと作ってやる。それにな、座って執務をする官吏たちの中には、痔の保持者がとても多いのだ。特に……イボ痔。 だから陛下だろうが、王太子殿下であろうがナルだろうが、モーマンタイである。 むしろイボ痔を我慢すれば、座っていられない、頻繁に席を立つ、集中できないなどの理由で執務効率も落ちるだろう。 イボ痔は早めに宮廷医官に相談して欲しいものである。 「イボ痔ですらなかったらどうする……」 「切れ痔か?」 「切れ痔でもなかったらどうする……っ!」 「いや、痔じゃなかったんならいいんじゃねぇのっ!?」 「でも……出るんだ!私の尻からは……血ではない、何かよく分からない液体がぁっ!これがイボ痔だったら、切れ痔だったらと何度も思い返したが……やはりイボ痔でも切れ痔でもないんだぁぁっ!なのに尻が痛むううぅっ!」 んー、イボ痔でも切れ痔でもない……?待てよ……?痔って……確かもう一種類あったよな……?こちらの世界では聞かないし、受けに妊娠器官が備わっている時点で地球とは身体の作りも違う……。だからそう言う関係かとも思っていたのだが。 「お前、熱は?」 「38.5℃だった」 それお前、地球じゃ真っ先に妖精さん疑われるからな……?こっちの世界ではまだ妖精さん蔓延してないけども。 「痛みはあんだろ?ついでに腫れてる?」 「うん」 発熱、尻の痛み、腫れ、尻から出る謎の液体……それは、膿では……? 「安心しろ、お前は痔だ」 「気休めはやめてくれ……っ。こんなのは痔とは呼べない」 「いや、痔だよ!確実に痔だわっ!お前も痔だよ!」 「しかし……読んだ痔報のイボ痔の症状とも、切れ痔の症状とも違う……」 「……ったりめぇだ。お前の痔は……【あな痔】だ」 「あ……あな、ぢ……?わ、私は攻めだぞ!リバはなしだぞ!」 ※リバはありません 「誰もそんな話してねぇだろうが!あなって言葉に過敏に反応すんじゃねぇ!あと、あな痔って分かった以上は……やるぞ」 「な……何をだ……?」 「手術に決まってるだろうがっ!」 「そんな、いつ!?」 「今だよ!」 「そんな急に……っ」 「お前あな痔をナメんなよ!?あな痔ナメてっと、尻ん中が蟻の巣になんぞ!」 「ひぃうっ!?」 「あな痔は速やかな医療機関の受診!これ大事!」 「はいいぃっ!」 よし、それでは早速ナルのズボンを下ろし……。 「お前何で勃起してんの」 前から別のもんが出そうになってるぞ。おぱんつ破れ弾けてっぞ、おい。 「スオを前にして、常に勃起しない私など……私とは言えない」 「いや、我慢しろよそこは、王子」 てか、今まで俺を前にして常に勃起してたか? 「だから今まではちんこ上向きブリーフを穿いていたのだが……今朝同様のあまり、ちんこを下向きにしてしまったのだ……く……っ!侍従のちんこ下向きでいいんですか発言を……聞きそびれた……っ」 「どうでもいい追加方法だが、うちに婿入りしたらパンツは自分で穿けよ?」 「スオが穿かせてくれるんじゃないのか!?」 「何で。ちんこくらい自分で上向きに入れとけよ。うちのぱぱんに知られたらちんこ捥がれるぞ」 「そ……それだけは……っ。自分でちんこ上向きに収納します……」 分かればいいんだ、分かれば。 まずはナルの尻を問診。医療魔法で詳しく尻ステータスを確認すれば……あー……やっぱり。前世で聞いたことのあるあな痔だな。 そんじゃ早速。 俺は尻ステータスを確認しながら、あな痔発生ポイントを拡大して調べる。 俺が始めた治療に、何事かとほかの宮廷医官たちが集まってくる。 「さぁ、うなれ!俺の全瘻管切開開放括約筋温存術うぅぅっ!」 まぁ難しい医療用語が並んでいるが、これはあれだ。あな痔の原因となる管のようなものがあるとするだろ?あれを括約筋が傷付かないように魔法で切除し外に転移させ、中にある大事な括約筋を緩くならないようくっ付けると言う手法である。 あぁ、因みに括約筋ってのは、尻の開け閉めのための筋肉な。 ※なお、地球上の治療法とは異なる部分があります。 なお、切除も転移もくっ付けるのも、医療用のお尻ステータスによって難なく進められていく。途中仲間の医官たちも勉強のため加わってくれて、さくさく手術が完了した。 「ほら、終わったぞ。ナル」 「う……うぅ……っ、終わったぁ……っ」 「これからは熱も治まるだろうし、座れるようにもなる。だから今日は部屋でゆっくり休むように」 「うぇっぐ……本当に、治ったのか……?もう尻から変な液体出ない……?」 「膿な。あと、再発の危険はあるから、ちゃんと処方する薬飲むこと。それからアルコールはだめ、食事は消化のいい食べ物出してもらうこと」 「は……はい」 「よし」 「あの……」 「他に何か心配ごとか?」 「その……ちゃんと……な、治るなら……婚約破棄の件は……なしにしても……いいか……?」 「はぁ……なしもなにも、お前にそれを決定する権利はねぇだろ。お前にその気がないなら、そのままだ」 「うん」 治ったら治ったらで、落ち着いたな。ほんと、手のかかる未来のお婿さまである。 「じゃぁ……すぐに歩かせるのも何だから、担架で運ぶか」 「見られるのは、恥ずかし……っ」 いや、既に宮廷医官たちのほとんどにナマ尻見られてるけどな……? 尻はいいのか?セーフなのか? 「じゃぁ、タオル被せるから」 「うん」 こうして、タカタカと何人かで顔にタオルをかけたナルを移送していたら、思わぬところでぱぱんに遭遇してしまった。 「スオ、それは?」 「ナルです、ぱぱ上」 「そうかそうか……!ナルが遂にくたばったか!これでうちのスオたんはぱぱの秘蔵っ子だ!」 いや、それじゃ公爵家誰が継ぐの。まま上(♂)に怒られるよ?あと、自分の甥に対して容赦なさすぎ。また陛下がストレスで下して切れ痔になるって。ただでさえ公務で座ってばっかでイボ痔なんだから。 因みにぱぱ上は終始動き回っているのでイボ痔ではない上に、メンタルツヨツヨでストレス胃にはならないので切れ痔も未経験だ。 そしてそれにはさすがにナルもタオルを取り払って叫ぶ! 「私は生きてます、叔父上えええぇぇっ!」 「ち……っ」 ぱぱ上渾身の舌打ちであった。 ――――その後。 あな痔を完全に克服したはずのナルが、また宮廷医官の施術室にやってきた。 「どうした?また痔か?あな痔……ではないはずだよな?攻めさまなのにまさか切れ痔?それともイボ痔か?」 「いや……今は痔は大丈夫だ。それに……その、治ったわけだし……その、スオ」 「うん?」 「今夜……一緒にどうだろうか……?部屋に、泊まりに来ないか……?」 ぱぱ上の出張中に誘ってくるとは……完全に確信犯じゃねぇか……っ!しかし……。 「ごめん、俺は今日は無理。いや、暫く」 「な、何故だ……っ!」 「今俺、切れ痔なんだよ。治るまでそう言うの、無理だから」 「な……なん……な……っ、一体誰のモノを()れたんだ!?」 「()れてねぇよ、バカっ!ただのお通じの失敗だっつの!言わせんなぁ、そんなこと!」 「ご、ごめん……」 しゅんとするところは……まぁかわいいとは思うのだが。 「……そ、それに俺のはお前専用だろ?そんな浮気性じゃねぇもん、俺」 「そ……そうか……それなら……」 ナルの顔が赤らんだ。まぁ、また熱が出た……わけではないようだから、まぁいいか。 「また痔になったら、恥ずかしがらずに言うんだぞ?」 「も、もちろんだっ!」 ナルはそう言って、にこにこと頷いた。
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