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頭の中身を整理する前に次々と投げかけられる言葉に体が硬直したまま動かない。そん なイチカの様子を見て、美濃羽は小首をかしげる。ベッドで固まったままのイチカの元へとやってきて美濃羽が座った瞬間、ぎしりとスプリングが音を鳴らした。
「おはよう。ハニー?」
「っオ、オハヨウゴザイマス?」
顔が明らかに熱い。昨夜のあれやこれが一気に脳裏に駆け巡り言葉が出なくなる。ぎこちなさにあふれた挨拶は妙に片言になっていた。
「起きれる?」
「ふぁ?」
屑で有名なはずの彼はイチカにすこぶる優しく、そしてべたべたに甘やかすように接し てくる。よくよく見ればあれだけ体液にまみれていたシーツも自分の体もきれいになっており、寒くないようにという気遣いからかパジャマも着せられていた。ただし、美濃羽のサイズの為ダボダボだったが。
「まさか……昨日の事覚えてないとか!?」
「そんなわけない! 流石に覚えてるってば! じゃなくて……なんか、恥ずかしい」
そう、恥ずかしい。居た堪れない。それを素直に口に出せば美濃羽は何が楽しいのか満面の笑みになる。
「――ふふ、イチカちゃん可愛い」
「ひぇっ!? ま、またそういうこという……」
「だって実際可愛いなと思うし」
嬉しい、恥ずかしい、面映ゆい、可愛いに抵抗がある。反面、そうやって甘やかすのは屑の常套句なのだろうかと失礼な事を考えてしまう。
「あの、美濃羽さん」
「ん? 今更さん付け? 普通に呼び捨てで良いし何ならみー君でも良いし」
「それは流石にやだ」
恋人同士ならいざ知らずそれは無いだろう。否、恋人同士でもご免だ。キャラじゃない。
「じゃなくてっ! いくら払えば良い?」
「――なんて?」
「うん。だから、いくら払えば良い?」
「それは一泊の料金? それとも朝ご飯? 風呂の使用料?」
「あ、そっか……そういうのもいるんだ……全部でおいくらですか?」
「だからなんで!?」
なんでと言われても。きょとんとしたままイチカは小首を傾げた。それから何の疑問もないきれいな瞳で答える。
「私が美濃羽を買ったからじゃないの?」
「……オレ、売られてたの?」
「え? 違うの?」
はぁ……と大きなため息を吐いて美濃羽は何とも言えない顔をした。それからイチカの髪をくるくると指で持て余しながら仏頂面になる。
「君がそういう面白い子だっていうのを忘れてたわ」
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