一目惚れなんて生易しい物じゃない

2/4
前へ
/29ページ
次へ
 あまりに住む世界が違うと自嘲して、どうせ会うこともないだろうと感情に蓋をした。  だのに、運命とは面白いもので自分たちの人生ですれ違う事もないと思っていたイチカ と廻り合わせが来る。日く、幼馴染からバカにされている処女を捨てるのに協力してほしいとのこと。  なんて都合のいい展開だろう。  男の名前はどうやら桜庭祐一というらしい。覚えはある。イチカの隣を歩いていた男だったし、それを認識した後、自分と同じ学科を取っていた男だと初めて彼を視界に入れた。多分、おそらく。いや、確実に桜庭はイチカの事を憎からず思っている事だろう。いわゆる小学生がそのまま大人になってしまった典型的なバカな事例。  子供のころからの習慣で「男友達」という位置に満足し、臆病風に吹かれて好きな女に告白も手も出せないヘタレ野郎。もっとも、そんな扱いを受けていたイチカは桜庭に不快という感情しか持っていないようだが。かくも悲しきかな。現実は漫画や小説のようにはうまくはいかないらしい。  当たり前だ。そんな雑な扱いをされてどうして好感がもてようか。  で、あれば。その隙間を埋めるように自分が入り込めるのでは? と考えるのは自然の摂理ではないだろうか。  獰猛的かつ異様なまでの執着心を隠し、どろどろになるまで甘やかして美濃羽なしでは生きられないようにしてしまうのが良いのではないだろうか。そう考えて、ややサイコパスじみた己の思考、こういった執着心が自分の中にもあったのかと驚いた。 ・・・  今までのイメージを覆すという行為は存外精神が疲弊する。面倒なのは数日間だけであり、後は慣れるだろうとイチカは踏んでいるが好奇の目にさらされるのはどうにもしんどい。美濃羽の言葉に甘えて、彼と付き合っている事にして馬鹿な女を演じるのもありでは? と思ったが後々面倒になりそうな気しかしないため、元からこういった服装をしてみたかったと正直に周りに言った。  案の定、最初の数日間だけは好奇の目にさらされたが目に慣れてきたのか、或いは存在に慣れてきたのか次第に周囲は何も言わなくなる。友人関係は特に何か変わるわけでもない為今まで通りの大学生活を送れていた。  少し気になる事があるとすれば、それは祐一が何も言ってこない所だろう。というよりも、会いに来すらしない。面倒なのはごめんだから正直それはそれで別に構わなかった。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

77人が本棚に入れています
本棚に追加