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いつまでもお友達ごっこをしたいわけでもないし、イチカは呪いの元凶から逃げ出したい気持ちも強い。だが、こうも何もないというのは正直気味が悪いものがある。
「そういえば桜庭、最近みないね」
授業前、大学に入学した時から仲良くなった友人――茉莉がぽつりと言葉を漏らした。
「あぁ……そうだね」
「喧嘩でもした? 学部違うくせにほとんど毎日来てたじゃない。あいつ」
言葉の端から見て取れるように、茉莉は祐一の事を酷く嫌っていた。曰く、言動が子供じみていて受け付けられないそうだ。
「まぁ、でも清々するかなぁ。見なくなって一か月。平和平和ー」
「清々するの?」
「うん。だって小学生じゃあるまいし年頃の女子捕まえてさ、やれ男友達だの何だのってうざくない? イチカもよくあれと付き合ってるよねってみんな言ってるし……あ、付き合うってそういう意味じゃないから。イチカが心底嫌がってるのも、いわゆる好きな子ほどイジメたいの延長戦って判ってたし。良かったじゃん、あいつに付きまとわれなくなって」
傍から見ればやはりそう見えるのだろう。実際そうだから別に反論はしない。するつもりもない。
(うーん……これは、美濃羽が心配しすぎたかな……)
そう思っていた矢先の出来事。授業が終わり、美濃羽との約束の時間までどうするかを悩みながら講義室を出れば待ち構えていたように祐一がそこにいた。
「イチカ」
「……何?」
どうやら心配しすぎ、ではなかったようだ。スマホをいじりながら祐一に返答する。明らかに不穏な空気に茉莉はいつでも誰かを呼べるように目配せをしていた。
「その恰好やめろよ。だせぇな」
(うーん……予想通り……)
しかし目は胡乱げで正直真っ当な人間の出す空気感はない。
「何勘違いしてんのか知らねぇけど、そういうのは女子がやる格好であって」
「女子だけど」
「はぁ? 今まで男みたいな恰好してたじゃん。何いきなり色気づいてんだよ。あれか? 周りが彼氏とか出来てるから焦ってんの? 別にお前はお前だからいいじゃん。無理に女の格好する必要もねぇし無理すんなって。お前の事一番判ってるの俺なんだからさぁ」
「うわ……きも……イチカ、もう行こう」
「おいおい、部外者が入ってくるなって。俺がイチカと話してんだから。俺とイチカ何年の付き合いだと思ってんの? お前より全然イチカのこと知ってるからさぁ」
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