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月曜日のアンジェラ
アンジェラはかわいい。
五年生の中で一番かわいいと思う。
透き通るような金の髪。金色の産毛が光る頬。
ほっそりした手首に金色の繊細なブレスレット。これは僕がアンジェラの十才のお誕生日にプレゼントしてあげたもの。
名前の通り、天使のようなアンジェラ。
僕の幼なじみ。
「ここ?」
僕に手を引かれてアンジェラは不安げな顔をした。
「ランチの後なら、低学年の子たちはみんな遊具で遊んでいるからね」
僕はアンジェラに微笑みかける。
学校菜園の薔薇のアーチ。
眠そうにうなるみつばち。
音楽室からコーラス隊の練習が聞こえる。
校舎の日陰になる部分を選んで、アンジェラは花壇に腰掛けた。ワンピースの裾を引っ張って伸ばしている。
そわそわしているときの彼女のくせ。
「校長先生の部屋から見えないかしら? 知ってた? 校長室って音楽室の隣の隣なのよ」
良い子のアンジェラ。君が何を気にしているか、僕には分かる。
「見えたってかまわないよ」
僕はアンジェラの肩に手を回した。
おでことおでこをくっつけ合う。
「コーラスの練習をさぼっちゃったわ」
アンジェラの吐息が僕の唇にふわりとかかる。
ランチプレートにのっかっていた、チョコレートドリンクの甘い匂い。
「君はかわいいよ」
僕はアンジェラの言葉をさえぎった。
「ねえアンジェラ。もうがまんできない。君に触れたいんだ。いい?」
初めてのキスは一昨日の土曜日に、僕の家のポーチで。家の中には、入れなかったから。
あれは小鳥みたいなかわいいキスだった。
今日が二度目。唇がそっと触れ合う。
みつばちのうなりが右耳の奥で鳴ってる。
アンジェラの肩を抱き寄せる。震える肩と半袖ワンピースの袖口のざらっとしたレースの感触。
触れてつついて、やわらかなつぼみを開かせたいんだ。
僕のアンジェラ。
「息がとまっちゃうわ」
目を閉じていたアンジェラが、僕を押し戻した。
小さな胸を上下させて深呼吸している。
アンジェラの言葉に僕は笑う。
「息を止めちゃだめだよ。ほら、吸ってごらん。僕の息を送ってあげる」
アンジェラの手がワンピースの裾をぎゅうぎゅう引っ張っている。
小さなひざこぞうが細かく震え、手首のブレスレットがしゃらしゃらと揺れる。
かわいい。
アンジェラのワンピースの下に隠されているものを、僕は知りたい。
「オスカー」
アンジェラが僕に呼びかける。
「好きよ。オスカー」
僕は微笑む。
「君はかわいいよ。アンジェラ」
アンジェラの唇をもう一度ふさぐ。
午後三時にスクールバスに乗り込むときに、僕のバックパックを誰かが引っ張った。
ロンドンだった。
「オスカー。あなた、学校菜園の花壇で、アンジェラとキスしてたでしょ」
ロンドンは僕より背が高くて、クラスの誰よりも長いきれいな黒髪をした女の子。
すっとした目鼻立ちの、きれいな子。
僕は肩をすくめて見せた。
ロンドンの髪をひとふさ、指に絡めることを想像したら、もっといいことを思いついた。
「君もしたいならおいでよ。ランチの後」
僕の言葉に、ロンドンはあきれた顔で肩をすくめた。
「ねえ。ロンドン。僕、黒い髪って素敵だと思うよ」
僕は運転手にハイタッチして、スクールバスに乗り込んだ。
いつものようにアンジェラの隣に座った。
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