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水曜日のヨハンナ
ヨハンナは黙ってあめ玉を僕に差し出した。
黄色いリボン型のパッケージに包まれたあめ玉は、おなじみの蜂蜜とハーブ入りのどあめ。
風邪をひいたときにママがジンジャーエールとセットで買ってくるやつだ。
ヨハンナのママはきっと、ジョーブレイカーなんて家に置いておかないのだ。
ふふ、と僕が笑ったのでヨハンナは細い肩をさらに細くして縮こまった。
楽しくてたまらない。
ヨハンナが本当に来るだなんて。
「あたし、やっぱり帰らなくちゃ」
消え入りそうな声でつぶやくヨハンナの手を引く。
一緒に花壇に腰掛ける。
今日のヨハンナはせいいっぱいのおしゃれをしている。いつもはチノパンツをはいているのに、今日はスカート。
ギンガムチェックのスカートはオズの魔法使いのドロシーを思わせる。
かわいらしいと思う。
「どうして? おしゃれして来たんでしょう? かわいいよ」
ヨハンナがぱっと顔を上げた。
薄い皮膚の上、目の下に散ったそばかすが、複雑な地図みたいに見える。
南太平洋の島々みたい。
「ね。ヨハンナ。動かないで」
僕はそばかすの上に人さし指をすべらせた。
「触ってもいい?」
「どこに?」
ヨハンナの唇が震えている。
でもまだ、そこじゃない。
まだそこには触れてあげない。
「君のそばかすに触れてみたかったんだ」
ヨハンナは眉をしかめた。
そばかすは彼女にとってコンプレックスだった。
ヨハンナはアンジェラみたいな、しみひとつない陶器みたいな肌にあこがれているのだ。
僕はそのことを知っていた。
「ずっと、こうしてみたかったんだ」
嘘じゃない。
そばかすの上をなぞって、頬をなぞって、ヨハンナのあごを人さし指で持ち上げる。
僕はヨハンナにのどあめのパッケージを開けるようにと頼んだ。
僕はヨハンナの目を見つめていた。
ヨハンナの指先が動く。
かさかさという音がして、リボン型のパッケージは簡単に開いた。
「僕の唇の間にあめを入れてよ」
ヨハンナは僕の言うとおりにした。
僕の唇の間にあめを挟むように押し当てた。
「上手だよ。そのまま。そのまま君の唇で、あめ玉を受け取るんだ」
僕は待つ。
唇の間にはちみつの匂い。
僕の人さし指の上でヨハンナのあごが震えている。
くしゃり、とあめ玉のパッケージが握りつぶされる音。
ヨハンナの唇があめ玉に触れ、僕の唇に触れた。
僕はヨハンナの口の中に自分の舌を差し入れた。
あめ玉ごと。
僕の一部が女の子の中に入り込んでいるって、それは痺れるような感触だった。
ヨハンナの唇の端からはちみつ味のよだれがひとすじ、あごを伝い、スカートの上に垂れた。
「だいじょうぶだよ」
僕はヨハンナの口の中にそそぎこんだ。
「かわいいスカートをちょっとだけ汚してしまうのって。それって、すごく面白いと思わない?」
ヨハンナは溺れかけの人みたいに肩で息をしていた。
キスをしている間中震えていた。
「ヨハンナ。明日もここへおいでよ。僕と君だけの秘密だよ」
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