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一.響応
高校卒業も間近に迫る二月某日、音楽室にて。
私、一乃瀬結衣は、人生を変えられた。
最後の音楽の授業は自由発表で、先生曰く、
「成績とは関係ないから伸び伸び好きなようにやって」
であった。
私は子供の頃からそこそこやってるピアノで、ベートーベンの第九・合唱部分を、ちょっと激しめにジャズ風アレンジしたものを演奏してみた。
他のクラスメイトは、流行りの曲を何人かで歌ったり踊ったり、ギターで弾き語りをしてみたり、中には子供の頃からやっていたらしい三味線を弾いて皆を驚かせた者もいた。
そんな中、彼、央田響樹が登壇する。
普段は地味で無口で、私なんかは同じクラスになってこの一年、全く関わりのなかったような男子だったのだが、この時それを激しく後悔した。
短いオリジナル曲をアカペラで歌い上げた彼に、私は頭が真っ白になるぐらい感動してしまったのだ。
恋に落ちるのとはちょっと違うが、私は心の琴線一本一本の全てに、
「あぁ、歌って、歌う人って、いいなぁ」
という想いが染み渡った。
そして私は、大学を出た後、受験のときに想定していた進路とは異なる、レコード会社への就職を決めた。
人が好きだから接客業、と思っていたのだが、必ずしもそういうことではないと思ったのだ。
魂を揺さぶる『歌う人』を、もっと間近でもっといっぱい見たかった。
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