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五.共鳴
会議室には、レコード会社の重役に加え、テレビ局や楽器メーカー、CG制作会社の上級職も顔を連ね、本企画の責任者に任命された一乃瀬結衣は、数名の部下と共に緊張した面持ちで名刺を交換して回り、席へと戻った。
結局、作詞担当は作詞家の二宮陽星に決まったのね……。
で、あの三郷陽向って女の子、楽器メーカーの開発主任って肩書き、あの子が十五歳にしてほとんど一人で『HIBIKI』を作り上げたという、噂の天才高校生に間違いないわね……。
一乃瀬結衣は、楽器メーカーのスーツたちに紛れ制服姿で涼し気に紅茶を口に運ぶ少女を、思わずまじまじと見つめていたが、部下に脇腹をつつかれて我に返り、高座に上がるとマイクを握った。
「お集まりの皆様、本日は誠にありがとうございます。
この度、新時代に向けた画期的なプロジェクト『HIBIKI』が、ついに始動致します。
本プロジェクトは、子供向け音楽番組の歌うお兄さんお姉さん、体操するお兄さんお姉さんに加え、音声合成プログラムと3DCGを融合した歌と体操の担い手『HIBIKI』を新たに導入するものであります。
昨今の世界の流れからも、年齢も性別も国籍も度外視可能な音声合成プログラム及び3DCGが負う役割は非常に大きいと考えており、我々は今まさに新たな時代を作ろうとしているのであります。
と、まぁ、前置きで長々と説明するよりも、まずは『HIBIKI』の歌声を聴くことに致しましょうか」
視線を送ると、三郷陽向が頷いて、手元の小型タブレットを操作する。
会議室に備え付けられているスピーカーから、男とも女とも取れる美しい歌声が流れ出した。
え……?
これは……あの時の、彼の歌声……?
どうして……。
壇上の一乃瀬結衣が、遠い記憶の音楽室を脳裏に蘇らせて思わず涙ぐむ。
同時に二宮陽星もまた、驚きながらも何か着想を得た様子でペンを走らせ始めた。
短い歌が終わると皆が拍手を送り、少し微笑んだ三郷陽向が再びタブレットをタップする。
『歌は、人を動かす。
歌が、人を繋ぐ。』
『HIBIKI』が、透き通りながらも強く引っかかり、なぜか気持ちが高ぶる不思議な揚力を持った声で、『HIBIKI』プロジェクトのキャッチコピーを唱えた。
終
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