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私の言葉は思いもよらぬものだったのだろう。ユーリーが目を丸くする。
彼の表情が変わった瞬間だった。
「ええ! もっと素敵なこと! あなたが楽しいと思えることに!」
「……そうか。なら俺は、君のために力を使いたいな」
「え……」
そこからは屋敷に戻るまでは、あまり思い出せなかった。
気づけば私は屋敷に戻っていて、父に泣きながら抱きしめられていた。
新聞では、犯罪者組織が壊滅寸前まで追い詰められ、主犯格のメンバーは捕らえられたと報道がなされていた。
だが、その時の私にはもう、誘拐されたこと自体の記憶がなく、完全に他人事で状態だった。
◇◇◇◇◇◇
ふっと暗闇から意識が浮上する。
私が目を開けるとそこは、ユーリーの家の食堂だった。それも夜。
――私、生きてる?
馬車が燃えて、炎に包まれたあの時。
私は確かに死んだと思った。
ユーリーの腕に抱かれて、私は自分の命が消えていくのを確かに感じた。
だけど、今、私は生きている。
体が溶けて消えてなくなりそうなほどの熱さを感じたのだ。
火傷の一つや二つ、それどころか全身に火傷を負っていても不思議ではないのに。
私の体には、傷一つない。
――やっぱり巻き戻ってる。
そんな馬鹿なと思う自分と、やっぱりと思う自分がいるのを感じる。
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