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3話
ユーリーと暮らし始めて、二週間が経過した。
どうして私のことを知っているのか分からないことは多い。だが、私はユーリーという魔術師に愛着が湧き始めていた。
というのもこの魔術師、私に対して非常に優しい。
私は、令嬢ということもあってあまり料理が得意ではない。ご飯の用意はユーリーがしてくれるし、困ったことがあればすぐに駆けつけてくる。
なんなら、気がつけばそばにいる。呼んでもいないのにいるものだから、ちょっと怖い。
――なんでこんなに良くしてくれるのかしら。
私は魔術書を本棚にしまいながら考える。
ユーリーとは、どこかで会ったことがあるような気がするのだ。なのに、思い出せない。
あの魔術師は目立つ外見をしているから、一度会ったら忘れるはずがないのに。
「フェル、この本もしまっておいてくれるかい?」
「えっ、ああ、置いておいてちょうだい」
聞こえてきたユーリーの声に、私ははっと顔を上げた。
いつの間にかユーリーが書庫に入ってきていたらしい。
「何を考えていたの?」
机に本を置いたユーリーが、私の方へ近づきながら言った。
「べ、べつに何も! ただ、どうして良くしてくれるのかなって考えていただけ!」
素直にユーリーのことを考えていたと打ち明けるのは気恥ずかしくて、私はふいと顔を背けた。
「……もしかして、婚約者殿のことかい?」
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