3話

1/5
前へ
/29ページ
次へ

3話

 ユーリーと暮らし始めて、二週間が経過した。  どうして私のことを知っているのか分からないことは多い。だが、私はユーリーという魔術師に愛着が湧き始めていた。  というのもこの魔術師、私に対して非常に優しい。  私は、令嬢ということもあってあまり料理が得意ではない。ご飯の用意はユーリーがしてくれるし、困ったことがあればすぐに駆けつけてくる。  なんなら、気がつけばそばにいる。呼んでもいないのにいるものだから、ちょっと怖い。    ――なんでこんなに良くしてくれるのかしら。  私は魔術書を本棚にしまいながら考える。  ユーリーとは、どこかで会ったことがあるような気がするのだ。なのに、思い出せない。  あの魔術師は目立つ外見をしているから、一度会ったら忘れるはずがないのに。 「フェル、この本もしまっておいてくれるかい?」   「えっ、ああ、置いておいてちょうだい」  聞こえてきたユーリーの声に、私ははっと顔を上げた。  いつの間にかユーリーが書庫に入ってきていたらしい。 「何を考えていたの?」  机に本を置いたユーリーが、私の方へ近づきながら言った。 「べ、べつに何も! ただ、どうして良くしてくれるのかなって考えていただけ!」  素直にユーリーのことを考えていたと打ち明けるのは気恥ずかしくて、私はふいと顔を背けた。 「……もしかして、婚約者殿のことかい?」
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加