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「はっ?」
婚約者? ヘンリー様のこと?
なんでそんな勘違いをしているのだろう。私が主語を省いたせいだろうか。
ヘンリー様のことなんて、ユーリーに聞かれるまですっかり忘れていた。
ここ最近は、ずっとユーリーのことばかり考えていたから。
――あれ、私もしかして、この魔術師のことが気になってる……?
ふとその考えに思い当たって、私は動きを止めた。
――い、いやいやいや、違うから! 確かにユーリーはかっこいいし、優しいけど、得体がしれなくて!
「……君はあの婚約者殿のことが好きだったんだろう? 昔、俺に話してくれたじゃないか」
「……昔?」
そんな話をユーリーにした覚えがない。怪訝に思って首を傾げると、いつの間にやら目の前まで来ていたユーリーに手首を掴まれた。
そのまま本棚へ押し付けられる。
「……っなに?」
なにするの、と見上げると、ユーリーは泣きそうな顔をしていた。
あまりにも苦しそうな表情をしているものだから、こちらまで苦しくなってしまう。
「俺は……、君が幸せになれるならそれでいいと思っていたのに。そのためなら、俺はどうなってもいいと思っていたのに……」
溢れ出るように呟かれた言葉は、いつも澄ましているユーリーには似つかわしくないほど弱々しいものだった。
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