3話

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「はっ?」  婚約者? ヘンリー様のこと?  なんでそんな勘違いをしているのだろう。私が主語を省いたせいだろうか。    ヘンリー様のことなんて、ユーリーに聞かれるまですっかり忘れていた。  ここ最近は、ずっとユーリーのことばかり考えていたから。  ――あれ、私もしかして、この魔術師のことが気になってる……?  ふとその考えに思い当たって、私は動きを止めた。  ――い、いやいやいや、違うから! 確かにユーリーはかっこいいし、優しいけど、得体がしれなくて! 「……君はあの婚約者殿のことが好きだったんだろう? ()、俺に話してくれたじゃないか」 「……昔?」  そんな話をユーリーにした覚えがない。怪訝に思って首を傾げると、いつの間にやら目の前まで来ていたユーリーに手首を掴まれた。  そのまま本棚へ押し付けられる。 「……っなに?」  なにするの、と見上げると、ユーリーは泣きそうな顔をしていた。  あまりにも苦しそうな表情をしているものだから、こちらまで苦しくなってしまう。 「俺は……、君が幸せになれるならそれでいいと思っていたのに。そのためなら、俺はどうなってもいいと思っていたのに……」  溢れ出るように呟かれた言葉は、いつも澄ましているユーリーには似つかわしくないほど弱々しいものだった。
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