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「君が手の届く距離にいると、駄目みたいだ。君を……俺だけのものにしたくなる」
「ユーリー……?」
ユーリーの顔がゆっくりと降りてくる。
薄紫の瞳に囚われて、私は動けない。
ユーリーは長身を屈めると、私の唇に掠めるようなキスを落とした。
「な、なにするの……っ」
触れたのは、ほんの一瞬。
だけど、ひんやりとした唇の感触がまだ残っている気がする。
「……なにって、キスだけど?」
「なんでキスされなきゃいけないのよ」
一体この魔術師は、勝手に何を抱えているというのだろうか。
キスされたことよりも、教えてくれないことが腹立たしい。
ユーリーを睨みあげるが、全く効いていないようでふっと口元だけで笑われた。
「なんでって……君が好きだから?」
「はぁ……?」
私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
こちらは好かれる理由が分からないというのに。
「もう一度キスしたら、俺の気持ちがわかるかもね」
そう言って、ユーリーは顔を近づけてくる。
――ひ、ひいいいい!
「さ、さよならっ!」
私はユーリーの手を振り払うと脇をすり抜け、逃げるように部屋を飛び出した。
◇◇◇◇◇◇
ユーリーにキスされた日から三日。
ひとつ屋根の下で暮らしているというにも関わらず、私とユーリーの間にはなんとなくきまずい空気が流れていた。
「はぁ……」
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