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私は食堂の机に頬杖をついて、深いため息を吐き出した。
ユーリーはというと、もう夜だというのに街の人から依頼を受けたとのことで街へ行っている。
魔術師というのは、思いのほか便利屋として重宝されているらしい。
私は一人お留守番だ。
――なんで、キスなんかするのよ。
私が悩んでいるのは、すべてあの魔術師のせいだ。
別に、ユーリーのことを避けているわけではない。
だけど、あの日から、ユーリーの顔を直視できないのだ。
――私、ユーリーのことが好きなのかな。
わからない。
自分の気持ちも、ユーリーが何を抱えているのかも。
「はぁ……」
このまま考え込んでいてもしょうがない。
私はもう一度ため息を吐くと、調合の勉強をするために書庫へむかうことにした。
ダイニングを出て、短い廊下を歩く。
と、来客を知らせるチャイムが鳴った。
――あれ? お客さん?
もう夜更けだというのに、珍しいこともあるものだ。
こんな時間にどうしたのだろう。
私が不審に思いながら玄関の扉をそっと開けると、男が二人、立っていた。
「ああ? なんだ、この女」
「それはこっちのセリフなんだけど……」
一体この二人の男は誰なのだろう。ユーリーの知り合いだろうか。
気にかかるのは、身なりがあまりよくないということだ。
服装は、黒ずくめ。人相は、悪い。
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