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「――そういえばこの女、見覚えありません?」
「ああ、あるともさ。多分、五年前にうちの組織が誘拐した貴族の一人じゃねぇか? なんで町外れにいたかは知らねぇが……」
「まぁ、この女をダシにして、ユーリーに復讐できればこっちのモンっすね」
男たちがけたけたと笑っている。
だけれど、それどころではなかった。
――五年前……? 誘拐……?
聞き捨ててはならない言葉が聞こえた気がする。
なんだか、酷く頭が痛い。心臓がバクバクして、呼吸が苦しくなってきたような……。
「あ? お前なに馬車の上でマッチなんかすろうとしてんだ?」
「だって、俺は運転してないからタバコ吸ってもいいかなって」
御者台の方では、男たちの会話がまだ続いているようだった。
……マッチ? タバコ?
なんだか嫌な予感がするのは気のせいだろうか。
「気をつけろよ?」
「分かってますって……あ」
「あ、おいバカ、なんで馬車の上にマッチを落とすんだ! 早く逃げろ!」
――今、「あ」って言った!? 逃げろ!?
慌てふためいている男たちに、なんだかやっぱり嫌な予感がするのだが……。
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