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聞き覚えのある声がする。
馬車全体に水がかけられ、あれだけ燃え盛っていた炎が一瞬で消えていくのがわかった。
「フェリシア! フェル!!」
誰かが私の体を馬車から引きずり出し、強く抱き締めてくる。
この人は、誰だろう……。
必死に私の名前を叫ぶ声に覚えがあるのに、頭がぼんやりして、すぐに思い出すことができない。
「ユー……リー……?」
霞む視界の中で目を凝らせば、月夜に照らされた見覚えのある銀髪が、視界の端で夜風に揺れていた。
私は絞り出すようにして、ユーリーの名を呼ぶ。
「死なないでくれ、フェル」
ぽたりと、ユーリーの薄紫の瞳から、涙がこぼれ落ちた。
私の頬に落ちた雫が、ゆっくりと顔を伝って流れていく。
薄幸なだけで私は死なない、と。
そうユーリーに言いたかった。
――それに私、まだユーリーに気持ちを伝えてない。
私を抱いて涙を流す姿を見て、自覚してしまった。
私はこの、得体の知れない魔術師が……。ユーリーが好きなのだと。
言わないといけないのだ。
それなのに、もう。言葉が出ない。
ここで死んだら、私はどうなるんだろう。
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