53人が本棚に入れています
本棚に追加
5話
私が忘れていたのは、五年前のことだ。
忘れていた……というより、忘れさせられていた、という方が正しいのだろう。他でもない、ユーリーの魔術によって。
思い出したのは、ユーリーの魔力に間近で触れたせいだろうか。
ともかく、私とユーリーは五年前に出会っていたのだ。
あの男たちが言っていたように、私は五年前に当時国内最大規模だと噂されていた犯罪者組織に誘拐された。
多くの貴族の子息や令嬢が誘拐された、国を揺るがすほどの大事件だった。
ほとんどの子たちがひとつの部屋にまとめられて監視されているなか、私は一人何もない別室にいた。
私は公爵家の令嬢ということもあり、それなりに特別扱いされていたのだろう。
犯行グループたちが国との交渉に忙しい中、私の見張り役としてやってきたのが、ユーリーだった。
彼はあまり喋らなかったが、暇だった私は彼を話し相手にした。
当時は12歳と幼かったとはいえ、我ながら肝が据わっていると思う。
「ねぇ、あなた暇なの? 私とお話しない?」
「……好きにしてくれ」
無表情でそう言われたが、私は気にせずに続けた。
「私、フェリシアって言うの。フェリシア・ウィングフィールド。あなたは?」
「…………ユーリー」
「へぇ、綺麗な名前ね!」
私はユーリーに、色んなことを話した。まるで友達のように。
最初のコメントを投稿しよう!